話題のモキュメンタリーから幻の英国ホラー短編集まで… 秋の夜長に読みたい怖い話6選【書評】
フィクションとは思えないリアリティと、根源的な恐怖を突き付けてくる『お前の死因にとびきりの恐怖を』(梨/イースト・プレス)。人間は何に恐怖を感じるのか。死そのものなのか幽霊なのか、あるいは人間関係なのか……。果たして真の「恐怖」とは何なのか、その答えの一端が見つかるかもしれない。
これは運命に翻弄される人々の真実…『災厄の絵画史』
作家でドイツ文学者としても活躍する中野京子氏の「怖い絵」シリーズ。「恐怖」という切り口で名画に隠された残酷な物語や歴史の暗部に迫る内容で人気を博し、2022年には異例の舞台化を果たした。
そんな中野氏が2022年に手掛けた『災厄の絵画史』(日本経済新聞出版)では、パンデミックや飢餓、戦争や天変地異などをテーマにした名画から、災厄と戦い続けた人類の歴史を掘り下げていく。同書で紹介されているのは、ミケランジェロ・ブオナローティの「大洪水(ノアの方舟)」やピーテル・パウル・ルーベンスの「平和と戦争」と「戦争の惨禍」、エドヴァルド・ムンクの「病める子」などなど。 それぞれに込められた画家の思いや作品が生み出された背景など、歴史書としても楽しめるはず。人類が感じてきた本質的な恐怖を味わえるのは、この本ならではの魅力だろう。
本格的なホラーミステリを綴った『六人の笛吹き鬼』
「刀城言耶」シリーズや「死相学探偵」シリーズなどで知られるホラー作家の三津田信三氏が2024年に手掛けた『六人の笛吹き鬼』(中央公論新社)も、「怖い話」フリークにピッタリな1冊。三津田作品に度々登場する摩館市のとある公園を舞台に、「笛吹き鬼」を巡る物語が展開されていく。
「笛吹き鬼」は、鬼が笛を吹きながら隠れた子どもたちを探す鬼ごっこ。公園では6人の少女が遊んでいたのだが、鬼の笛とは違う別の奇妙な笛の音が鳴ったとき、ひとりずつ姿を消してしまい探しても見つからなかった。その数年後、当事者のひとりでホラー作家となった背教聖衣子はこの事件を調べ始め、やがて眠っていた「笛吹き鬼」が蘇ることに……。 まるで鬼に追われているかのごとく、怒涛のホラーが襲いかかってくる本書。知られざる「笛吹き鬼」の真相を目の当たりにしたとき、きっとこれまでにない恐怖を味わえるはずだ。
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