変化を恐れずたどり着いた菅野智之の“2度目の全盛期” 巨人担当カメラマンが選ぶ2024年ベストゲーム
最後までマウンドに立ち続ける背番号18の姿があった。敵地、横浜スタジアムで行われた7月28日のDeNA戦。菅野智之(35)は最後の打者・柴田を中飛に打ち取り、両手を高々と突き上げた。実に1199日ぶりの7安打完封勝利。「久しぶりの完封なので格別に気持ちがいい。(3年間)いろんな苦難がありましたが、今日は一つ乗り越えられた気がします」と充実した表情で汗をぬぐった。 この試合の初回、「あれっ?」と思う出来事があった。1死から佐野への初球、走者がいない中で菅野がクイックで投球した。2017年から巨人戦の取材に携わり、一昨年から巨人担当をしている私は、菅野が登板した試合を数十試合ほど撮影してきた。近年、走者がいない状況でクイック投球する投手は何人かいて珍しい光景では無いが、菅野はおそらく初めてだった。 真偽を確かめようと、後日、ジャイアンツ球場でその日のことを本人に尋ねてみた。「今年のキャンプから練習してきて、いつか(クイック投球を)やってみたいと思っていたけれど、あの日、初めて試してみた。打者のレベルが上がってきている今の時代、何かを変えていかないと勝ち続けることは難しいから」。巨人のエースとして10年近く君臨し、通算130勝以上を挙げてもなお変化を恐れずに進化しようとする姿に、すごみを感じた。 完封劇の2日前、こんなこともあった。7月26日は大竹秀義広報兼打撃投手の36歳の誕生日。同い年の私は試合前、三塁カメラマン席で大竹広報と談笑していたのだが、そこをたまたま菅野が通りかかった。 私「今日、ひで(大竹)の誕生日なんだよ」 菅野「えっ、おめでとうございます。ひでさん何歳になったんですか?」 大竹「36歳だよ。あれっ、智之って何歳だっけ?」 菅野「俺?俺は永遠の28歳♪」 大竹「そんなわけあるか!」 菅野「いやー、でも28歳の頃の体に戻りたいよ―」 その発言が気になった私はすぐに菅野の成績を調べてみた。28歳を迎えた17年は17勝5敗で防御率1・59。翌18年は15勝8敗、防御率2・14で2年連続沢村賞を受賞。文句のつけようが無い、まさに全盛期の活躍を見せていた。「28歳の頃の体に戻りたいよ―」という発言はきっと冗談だと思うが、昨年4勝に終わった菅野にとって、少しだけ本音だったのかもしれない。 今年1月、米ハワイで行われた自主トレを取材したときには、例年以上にハードな練習を課していた。長年、現地でサポートするトレーナーは「確実に去年よりも多く、かなりの量をこなしている。沢村賞を取った時の頃以上に走っている。(体も)軽そうですよね」と証言。17~18年当時を超えるほどで、菅野は「先発としてこれだけ走らないといけない」と話していた。 終わってみれば、24年シーズンは15勝3敗、防御率1・67でMVP&最多勝を獲得。見事な復活を遂げ、リーグ優勝に大きく貢献した。今オフには海外FA権を行使し、米大リーグ・オリオールズと契約合意。先月の入団会見では「野球で勝負していくんだという強い気持ち。本当にこの舞台に立つのが夢だった」と心境を語った。たとえ28歳の肉体に戻れなくても、変化を恐れず磨いた投球術でたどり着いた“2度目の全盛期”。来季、最高峰の舞台でどんな投球を見せてくれるのか、“オールドルーキー”の挑戦から目が離せない。(記者コラム 写真部巨人担当・相川 和寛)
報知新聞社