不妊外来から見える治療の現状(2)新生児の9人に1人 日本は体外受精大国
日本産科婦人科学会は、体外受精で生まれた子供が7万7206人(2022年)で過去最多を更新したと報告しました(「令和5年度臨床倫理監理委員会報告」)。 【男性不妊】世界中で精子の数が減少している…40年で60%減との報告も 「日本はすでに体外受精大国です。全出生数が減っているため、体外受精での子供の割合は年々上がっています」 こう話すのは、生殖医療専門医の大石元・国立国際医療研究センター産婦人科診療科長です。 22年に生まれた子供の9人に1人は体外受精によるものです。医療制度の違いがあり一概には比較できませんが、日本は最も体外受精の実施数が多い国といわれています。19年の体外受精実施数は、日本45万8101件に対して、米国では33万9773件(CDCデータ1995~2019年)、人口が3倍近い米国よりも多いのです。前述の委員会報告では、体外受精を受けた件数が多い年齢は、42歳、39歳、40歳の順で、体外受精の主流は40歳前後です。 「一般的な不妊治療は自然妊娠を目指すタイミング法(排卵日を予測し性交渉を行う)からスタートし、人工授精(採取した精子を直接子宮に注入する)、次に体外受精へと進みますが、40歳前後だと体外受精からスタートすることが多いのです」(大石医師) 22年4月から体外受精が保険適用になったことで、今後も実施数は増えると予想されます。ただし、体外受精の保険適用は年齢制限があります。女性が40歳未満なら6回治療が受けられますが、40歳~43歳未満では3回、43歳以上になると保険での治療はできません。今後、保険適用ぎりぎりの39歳で始める人が増えるかもしれません。 ちなみに米国の場合は、35歳未満が最も多く、約6割が37歳以下(CDCデータ1995~2019年)。体外受精に踏み切る年齢は日本よりかなり若くなっています。 「体外受精も高齢になるにつれ生産率(子が生きて生まれる率)が低下し、43歳では5%です。なかには諦めきれず、44、45歳まで治療を続ける人もいます」(大石医師) 最近では、妊娠しても流産を繰り返す人のために異常のない胚(受精卵が分割した状態)を選別する着床前スクリーニング検査が行われるようになりました。この技術で流産率が下がり、成功する例が増えているそうです。こういった技術の進歩で、確率が低くとも治療を続けたいという人が増えるかもしれません。 とはいえ、治療には期限がありますし、リスクもゼロではありません。 「体外受精は、人工授精などと比較すると妊娠する可能性が高い一方、体への負担が大きくなります。卵巣出血、卵巣過剰刺激症候群や異所性妊娠(子宮外の妊娠)が起こる可能性があります。とくに卵巣過剰刺激症候群は、重症化すると呼吸不全や血栓症などの合併症が出ることもあります。40歳を過ぎて行う場合は、将来の人生も考え、医師と相談しながら慎重に選択することが重要です」(大石医師) =つづく (医療ジャーナリスト・油井香代子)