性暴力事件で逆転無罪、SNSでは裁判長への批判の声も…署名運動の何が問題か? 弁護士が考察
●裁判官の弾劾とは
「裁判官は、裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の弾劾によらなければ罷免されない。裁判官の懲戒処分は、行政機関がこれを行うことはできない。」(憲法78条)とされています。 この「公の弾劾」については、裁判官弾劾法という法律にその内容が定められています。 同法2条では、裁判官が弾劾で罷免されるのは(1)職務上の義務に著しく違反し、又は職務を甚だしく怠ったとき。(2)その他職務の内外を問わず、裁判官としての威信を著しく失うべき非行があったとき。の2つに該当するとき、とされています。 署名運動に批判の声があがったのは、判決を理由に訴追を求めることになれば、司法権の独立を害するおそれが出てくるためと考えられます。 なお、今回の判決の内容が仮に不合理であるとしても(見ていないのでわかりません)、基本的には同法2条の各事由にはあたらないと思われます。
●判決を批判してはいけないのか
それでは、国民が、「どうも納得できない判決だなあ」と思ったときに、その判決を批判することは、司法権の独立に反し許されないのでしょうか? 結論からいえば、そんなことはありません。 判決を批判すること自体は、言論として尊重されるべきでしょう。 司法権が独立しているからといって、「どんなに好き放題判断しても、およそ世論による批判は許されない」となれば、国民は裁判という制度そのものを信用しなくなり、裁判という制度の存立にも関わるでしょう。 判決が納得できない、という意見を表明することは、表現の自由(憲法21条1項)として保障されるべきです。 判決の結論や内容を超えて、裁判官個人に対して批判を向けることが許されるのかは微妙な問題です。個人的にはあまり正当なことだとは思えませんが、裁判官個人に対する単なる攻撃ではなく、不合理な判断をしたことについての批判に留まる限りでは、なお表現の自由の範囲に含まれるといえると思います。