「知の巨人」松岡正剛が最期に日本人に伝えたかった「日本文化の核心」
「わび・さび」「数寄」「歌舞伎」「まねび」「アニメ」。日本が誇る文化について、日本人はどれほど深く理解しているでしょうか? 【写真】「知の巨人」松岡正剛が最期に日本人に伝えたい「日本文化の核心」 昨年逝去した「知の巨人」松岡正剛が、最期に日本人にどうしても伝えたかった「日本文化の核心」とは。 2025年を迎えたいま、日本人必読の「日本文化論」をお届けします。 ※本記事は松岡正剛『日本文化の核心』(講談社現代新書、2020年)から抜粋・編集したものです。
「日本はダメになるかもしれない」
1970年代のおわりのころだと思いますが、渋谷の「壁の穴」という小さなお店で「たらこスパゲッティ」を初めて食べたとき、いたく感動してしまいました。 バターとたらこでくるめたパスタに極細切りの海苔がふわふわと生きもののように躍っている。それをフォークではなく箸で食べる。なにより刻み海苔がすばらしい。よしよし、これで日本はなんとかなる、そう確信したものです。そのうち各地の小さなラーメン屋が独特ラーメンを次々につくりだした。 まもなくコム・デ・ギャルソンやイッセイやヨウジがすばらしいモードを提供しはじめました。世界中にないものでした。また井上陽水や忌野清志郎や桑田佳祐が独特の日本語の組み合わせと曲想にのってポップスを唄いはじめた。大友克洋の「AKIRA」の連載も頼もしい。よしよしいいぞ、これで日本はなんとかなる。そう感じました。 私はといえば工作舎でオブジェマガジン「遊」の第3期を了え、講談社に頼まれた「アート・ジャパネスク」全18巻を編集制作していたころです。横須賀功光や十文字美信に国宝級の美術品を新たなセンスで撮ってもらい、まったく新しい切り口の日本美術文化の全集をつくっていた時期です。 それから10年後、ふと気がつくと日本はがっくり低迷していました。民営化とグローバル資本主義が金科玉条になり、ビジネスマンはMBAをめざし、お笑い芸人がテレビを占めて選挙に立候補するようになり、寄るとさわると何でもやたらに「かわいい」になっていた。司馬遼太郎が「文藝春秋」に『この国のかたち』を連載しながら、日本はダメになるかもしれないと呟いていた。