【LiLiCoのこの映画、埋もらさせちゃダメ!】『花束』サヘル・ローズ監督とのスペシャル対談:監督未経験で挑んだ本作に込めた熱い想いとは?
TV『王様のブランチ』で2001年から映画コメンテーターとして出演するほか、マルチに活躍されているLiLiCoさん。これまでも数々の映画をナビゲートしてきたLiLiCoさんに、「これは絶対に観逃してほしくない!」という“埋もらせ厳禁”な映画について語っていただきます。 【全ての画像】『花束』サヘル・ローズ監督&LiLiCoアザーカット
今回は連載特別編として、映画『花束』のサヘル・ローズ監督とLiLiCoさんのスペシャル対談をお届け! 俳優・タレントとして活動するサヘル・ローズさんが初監督に挑戦した映画『花束』は、児童養護施設で育った8人の若者が実名で登場し、それぞれの過去の記憶や想いを赤裸々に語り表現する作品。ドキュメンタリーでもありフィクションでもある実験的な作品となった本作は、自身も孤児院で幼少期を過ごしたサヘルさん自身が全国各地の映画館や映画祭、喫茶店、イベントスペースなどと交渉し、作品に関するトークショーも開催しながら上映を展開している。 そんな草の根的な上映形態でありながら、一方で“エグゼクティブ・プロデューサー”として岩井俊二、“音楽”としてLUNA SEAやX JAPANなどで活躍するSUGIZO、また佐藤浩市やサラ・オレインといったビッグネームが参加していることにも驚かされる。こんな豪華なクレジットはなぜ実現したのか、どうして監督経験のないサヘルさんがメガホンを握ることになったのか、そしてそこに込められた熱く切実な想いとは? 本作のテーマに強く共鳴したLiLiCoさんとサヘルさんに、じっくり語り合っていただきました!
児童養護施設出身である当事者が自己表現を通して、自分の過去と向き合ってもらいたい
LiLiCo 初監督作の『花束』。すごい挑戦ですよね。この企画は、いつ頃始まったんですか? サヘル・ローズ 構想を入れて7年前から始まりました。私が目指していたのは、児童養護施設出身である当事者が自己表現を通して、自分の過去と向き合ってもらいたいと思ったことが一番の理由です。そういう発想になったのは私自身の経験からだと思います。 案外、人は自分の人生を言葉にすることが少ないように思います。でも、言葉にして、一旦心を外に出してみると、自分自身を客観的にも見られるようになる。私自身は言葉にして初めて、何かが自分の中に存在している、自分のインナーチャイルドがあることを知ったんです。 もちろん、言葉にするには、苦しいことが大半です。でも、その作業のおかげで私自身が幼少期に落とした“心の部品”がどういったものか、そして今はどう感じているのか、ということを知ることができた。 また、私は幸い、表現するお仕事をさせていただいています。表現に没頭しているとき、お芝居のときだけ、他者になれる。表現するときだけは現実から逃避できる瞬間で、自分のことを考えなくていい時間が喜びです。でも、普段の生活では、やっぱり過去に引っ張られることが、いくつになってもあるんです。それが時に復讐心にも結びついてしまうことだってあった。そういった一見ネガティブに見える感情も、表現するうえでは、とても大事な躍動感になる。何か、心の置き場に変わると私は思っています。 この作品の主人公8人は児童養護施設で生活をしていたことがある若者たちです。それぞれ生い立ちは様々です。でもそれって、施設出身でなくてもそうですよね。施設出身だからどうこうということではなく、どんな人にも過去に傷ついてきた歴史があります。それを肯定できるきっかけって何かないのかな、もしくは向き合ってもらえたら、と思い続けてきました。大人になっても自分の過去を否定するのではなく、過去と向き合うことで胸を張って生きるため、できることが何かあるんじゃないか。そういうことを7年前から考えていました。 LiLiCo そうですよね。私も本当にそう思います。 サヘル・ローズ そういった題材の映画やドラマはこれまでもたくさん作られてきていますが、当事者が関わっていたとしても当事者が出ているわけではなかったと思います。それらを当事者が観たとき、当事者だから分かることや違和感を覚えることってどうしても出てきますよね。であれば、当事者が自分たちの存在そのもので語れる、伝えられる機会を作りたい。施設出身ということや、親がいないことで、中にはいろんなことを諦めなければいけなかった人たちに、おこがましいですが、自分にできることとして何か“チャンス”の機会を与えたいと願ってきました。 でも思いついた当初、2年くらいはどうしようかと模索を続けていました。最初はプロの映画監督に撮ってもらいたくて、ある監督にお願いをしていたんです。でも、コロナ禍に入り、その監督はミニシアターを守るための活動へ。また、コロナによって世界中が停止してしまい、映画制作など、エンターテイメントが遠くにいってしまった感じがしてしまい……。これはもう映画を作るのはダメかな、と諦めていました。 LiLiCo (泣)。ごめんなさい。つらかったよね。 サヘル・ローズ (泣)。いえいえ、あのときは世界中、みんな平等につらかったですよね。でもコロナがいろんなことに気づかせてくれたんです。今まで「時間がない」と言って諦めていたり、言い訳にしていたのですが、逆に「時間ができた」。言い訳はもうできないので、「やろう!」という一択を胸に、あらためて声をかけ始めました。 一番最初に電話をかけたのが、今作のプロデュースを務めて下さった佐東亜耶さん。亜耶さんも長年、児童養護施設の支援や、施設を退所した子たちと交流しており、多くの子どもたちを支えている素敵な女性なんです。また今作に出演してくださっている佐藤浩市さんも、児童養護施設や親のいない子どもたちに向けて思いを寄せていらっしゃるんです。そういう意味では、キャストだけではなく関わっている大人にもそういう問題にコミットしていらっしゃる方々が集まってくれたんです。 そんな心強い亜耶さんに2020年5月にまず連絡をして、「当事者の子どもたちが出るこういう作品を作りたい」と。すると、すぐに「協力するよ」って言ってくれました。それと同時に、本作の脚本を務めて下さったシライケイタさんも、コロナで今は時間の余裕があるから賛同すると言って下さったんです。ですが、監督をやってくださる方がいない。