課題解決の失敗から高校生が気づいたこと「相手のことを知らないと、何も解決できない」
2012年から幼稚園から大学まで多くの子どもたちに向け、出前授業や講演活動をしている原ゆかりさん。外交官の経験を生かしたその授業の内容は、アフリカビジネスや多様性、ダイバーシティ&インクルージョン、キャリア教育や国際理解など幅広い。そんな原さん自身、子どもたちの声からハッとさせられることも多いという。 【写真】思わず泣いた勘違いの後…ガーナの人たちとのミーティングの様子 出前授業とそこから学生たちや原さんが気づいたことを伝える第第4回は、2024年4月に原さんの地元の愛媛県今治市に新たに開講したFC今治高校(FCI)で行った授業「課題解決は、聴くことから始まる」からお届けしている。 前編では、識字率の低いアフリカ・ガーナの村に図書館が建った事例から、「現場の声を聴く」重要性をお伝えした。「傾聴力」という言葉も注目されているが、相手の文化を尊重したうえで話を聞く「文化的謙虚さ(Cultural humility)」がなければ、本当に「話を聞く」ことにもならないのだ。 後編では原さん自身にとって失敗から学んだという事例からさらに「課題解決」のために重要なことを掘り下げていく。
「やっと聞いてくれた」
Cultural humilityも聴くことに意識を傾けるのも、当事者を置き去りにしないため。ガーナの村で、無用の長物となってしまった図書館が作られた“Library”のような結果を防ぐため。これは私自身の失敗からの教訓でもあります。 12年前、MY DREAM.orgが最初に手がけたのは幼稚園の整備でした。木の下で学んでいたところに、雨風を凌ぐ立派な園舎ができれば、人々の目を惹きます。入園希望者が急増し、園舎はあっという間に手狭になりました。 村のチームは、幼稚園教育を受けたいと希望する子ども達をできる限り受け入れたいという想いのもと、園舎の拡張プロジェクトに着手しました。計画をたて、複数の業者さんから見積もりを取り、プロジェクト予算に応じた寄付を募りました。一連の流れの中で、村の外との関係をマネージするのは私の役割でした。寄付の使途やプロジェクト完成までのスケジュールを説明し、いただいた寄付を村人達に託し、プロジェクトの進捗状況をドナーに報告していました。 プロジェクトが動き始めてから数ヵ月後、工事が停滞し、予定通りに進まない事態に陥りました。当時私はガーナ国内にはいたものの首都で働いていたため、月に1度程度しか村を訪れることができませんでした。電話越しに状況を聞いては、急いで急いでと声がけすることを繰り返していました。 久しぶりに村を訪れると、やはり工事は止まったまま。いよいよこれは予定通りの竣工には間に合わないことを目の当たりにし、村のリーダーのZakさんに泣きつき、どうしたらいいと思うかとたずねました。すると、「やっと聞いてくれた」という言葉が返ってきました。 「ドナーへの説明責任を果たしたい気持ちも、約束したスケジュール通りに工事を進めたい気持ちもわかる。だから自分たちの側からは言いにくかったけれど、実はプロジェクトの責任者の奥さんが急逝して、しばらく現場に出て来られるような状況じゃなくなってしまった。でもプロジェクトに対する彼の想いは知っているから、安易に担当を変えることもしたくなかった。彼の準備ができるまで待ってあげたいと思った。ゆかりには、こういう予想外の事態に応じた計画の変更も含めて、ドナーに説明してもらうことはできないか」 私は自分が情けなくて恥ずかしくて、涙を抑えることができませんでした。当時の私がやってしまったのは、間違いなく当事者を置き去りにすること。ドナーの方ばかりを向いて、ひとりよがりな正義に突っ走っていました。自分の過ちに気が付き、村のメンバーみんなに謝罪したところ、メンバー最年長のDambaさんが、「このタイミングで気づいてくれてよかった、まだやり直せる。もう一度計画を練り直そう」と声をかけてくれました。 後日ドナーの皆さんに事情を説明し、スケジュールが大幅に遅れることを伝えましたが、それに対してネガティブな反応はありませんでした。今にして思えば当然ですが、当時の私は予定通りにプロジェクトを進めることが目的になっており、当事者に寄り添った思考や行動ができていなかったばかりか、ドナーの皆さんの想いすらきちんと汲めていなかったのだと思います。 Culturay humilityも、学び続ける姿勢も知る姿勢も大きく欠いた状態でした。 【学生たちのコメント】 ・個人で考えたときに、やっぱり当事者を置き去りにしないということがとても重要であると改めて思って、これからの課題解決にむけて動くときは、直接聞き入れていくことから始めていこうと思った。 ・当事者を置き去りにしないというお話がとても心に残っています。例えば、誰かに何か相談されたとき、自分の中でよい解決策が考えられると、「絶対こうしたほうがいい」という考えになりがちで当事者そっちのけで話してしまったりします。でも、一回一回立ち止まって、当たり前だけど当事者がいることを忘れずに話を進めていけるようにしたいなと思いました。