最近、あまり見かけない…CDなのに、CDを圧倒的に超える次世代CD「SACD」が乗り越えられなかった、たった一つの壁
音質面の制約をクリアしたSACDの登場
製造や流通、プレーヤー機器に対する要求など、物理的な制約に加えて、CDの規格には音質面でも制約がありました。直径12cmの光ディスクはCDが登場した1982年当時は最先端の技術であり、1枚のディスクに74分という収録時間と約650MB(メガバイト)の記録容量で十分と考えられていたのです。 しかし、その収録時間を実現するために、周波数帯域など音声信号の情報を一定の範囲に制限する必要がありました。そのためデジタル録音技術が時代とともに進化してCDを上回る音質を実現できるようになっても、その情報をCDに収録しきれないとい う問題が起こりました。CDの規格自体が古くなってしまったのです。 その制約を乗り越えるために「次世代CD(スーパーオーディオCD:SACD)」が提案され、1999年に発売されました。2層構造のディスクでは記録容量が最大8.5GB (ギガバイト)に及び、CDの10倍以上の情報を記録することができます。
SACDでも克服できなかった物理的なデメリット
SACDは現在もディスクとプレーヤーの生産が続いており、クラシックを中心に新譜も発売されていますが、CDに置き換わる存在にはなりませんでした。音楽配信が始ま る直前に登場したというタイミングの問題もありますが、すでに触れた物理的なディスクメディアの短所はSACDにもそのまま当てはまり、データ再生への移行を食い止め るほどの魅力はなかったと言わざるを得ません。 一方、ダウンロード方式の音楽配信の場合は配信する側で信号形式を絞り込む必要はなく、インターネットの速度さえ確保すればデータサイズの制約も事実上ありません。 録音・編集した音源をそのまま配信することも原理的には可能で、録音技術が進化して新しい方式が登場したとしても、再生機器さえ対応すれば音源を配信することができます。そこにも固定された規格の枠を超えられないCDとは根本的な違いがあるのです。
CDとの付き合いも新たな段階へ
しかし、かといって、大多数の音楽ファンが、短期間にネットオーディオに移行したわけではありませんでした。 初期のネットオーディオでは、リッピングやダウンロードのためのパソコン操作や、音楽配信サービスから購入する音源のフォーマットを複数のなかから選ぶ必要があるなど、CDにはなかった煩わしく感じる操作も必要になりました。 そうしたハードルの高さに嫌気がさして、再びCDに戻ってしまうという人も少なくありませんでした。そんな消極的な理由でこれからもCDを使い続けようと考える オーディオファンが存在することからも、いまのネットオーディオが抱える課題が浮かび上がってきます。 販売量が減り、ショップの数も以前より限られるようになってきましたが、CDはまだまだ現役のパッケージメディアとして広く普及しています。 プレーヤーについても、安価な入門機が少なくなった面はあるものの、特に日本では良質なCDプレーヤーをいまでも購入することができます。ネットオーディオの本格的な普及が進むまで、CDは重要な音楽メディアの一つとして存続していくことでしょう。 拙著『ネットオーディオのすすめ』では、既存のCDなどのパッケージメディアを楽しむシステムに、ネットオーディオを導入するアイデアも紹介し、専用のネットプレーヤーの導入など、以前の記事でもその一端を紹介しました。しばらくは、お気に入りのCDも楽しみつつ、新しい音楽鑑賞スタイルであるネットオーディオも積極的に取り入れる……そんなスタイルが良いのかもしれません。 * * * 次回は、ネットオーディオならではの、インターネットからプレーヤーにいたる「ネットワーク」の構成や接続機器選びのポイントなどをご紹介します。ネットオーディオというからには、何か特別な機器が必要なのでしょうか。ぜひ、ご一読ください。 ネットオーディオのすすめ 高音質定額制配信を楽しもう CDをはるかに凌駕する音質で、話題になったネットオーディオ。初めてネットオーディオに挑戦するオーディオファン・音楽ファンを対象に機材の選び方から、煩わしいネットの設定まで具体的に分かりやすく解説します。
山之内 正(オーディオ評論家)
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