論文は質より量?研究者が大学で「永年雇用」ポストを得るまでの長い道のり~「職業としての研究者」のリアル~
ゴキはゴキでも、その辺にいるゴキではない。沖縄のやんばるに生息する「クチキゴキブリ」に魅せられ、世界でただ1人その研究をしている人がいます。行動生態学を専門とする大崎遥花さんです。 大崎さんの初の著書『ゴキブリ・マイウェイ この生物に秘められし謎を追う』では、ゴキブリ愛にあふれた研究生活がさまざまなエピソードとともに紹介されています。 同書から抜粋し、3回にわたってお届けします。 第2回は「職業としての研究者」についてです。
■研究者はどうやって生きているのか 研究職はどういうことをしてお金をもらっているのか、不思議な職業の一つかもしれない。どのようにして「研究者」になるのか、日々どのように生きているのかについても、知る機会はほぼないと思う。 おそらくそれは、研究者のキャリアの多様さに一因がある。 研究職に就くルートとして、最もストレートなルートは、大学から大学院に進み、博士課程を卒業して博士号を取得した後、数年のポスドク期間を経て論文をたくさん書いて業績を積む。大学の教員公募に応募し、まずは助教、運がよければ講師に採用されるというものである。
近年は、そのまま永年雇用されるのではなく、5年や7年といった任期がある場合が多い。任期途中で雇用審査が行われるので、これをクリアすれば准教授や教授に昇格したり、あるいは昇格はしないが永年雇用(つまり定年まで)の資格を得るなどして、多くは65歳で退職を迎える(国公立の場合)。 このように途中で審査があって永年雇用に切り替わる制度をテニュアトラックという。聞いたことがある人もいるのではないだろうか。
同じ研究職でも、所属する研究機関が大学か、研究所か、はたまた民間企業かによっても大きく異なる。研究所は国立や私立の機関で、研究所や研究室ごとにだいたいテーマが決まっていて、そのテーマについて研究する研究者が集まっている。 そのため、「自分が興味あるのはゴキブリなので、ゴキブリの研究をやります」と言って研究所とは関係のないテーマを持ち込んで給料をもらうことはできない。 ただし、自身の取り組みたい研究と研究所のテーマが幸運にもかみ合っている場合もある。研究所は基本的に教育機関ではないので、授業を教えることはない。その分、研究や機器の整備、依頼解析(研究所の外部から研究所の機器を用いた解析を依頼されて行うこと)などに勤務時間を割くことになる。