論文は質より量?研究者が大学で「永年雇用」ポストを得るまでの長い道のり~「職業としての研究者」のリアル~
一方、大学の研究職は、大学教員として学生の教育に携わりつつ、自らの研究を進めていくスタイルになる。特に生物学は大学や研究室から研究テーマを指定されないこともある。 九大の大学院生時代に、隣の研究室だった数理生物学研究室の教授の佐竹さんに「自由なテーマで研究をしたいなら大学が一番だよ」と言われたことがある。佐竹さんとは、「指導教員–学生」ではない気楽な関係を築かせてもらっていた。毎回たくさんポジティブな言葉をくださる先生で、私は佐竹さんの言葉が聞きたくて学振の申請書の添削や、こういうちょっとした相談などを頼んで聞いてもらっていたのである。
また、学振PD(後述する競争的研究費の一種。学位を取って5年以内の若手研究者の養成のためのフェローシップ制度)の採用が決まったときには「お祝いに行きましょう!」と言って焼肉に連れて行ってくださった。バリバリ研究されてきた経歴の持ち主のお話を独り占めできる機会があって幸運だったなと思う。 ■業績を出し、アイデアを得て、次の資金獲得につなげる ただ大学が一番いい、とは言ったものの、粕谷さん(著者にクチキゴキブリ研究をさせてくれた指導教員。居室が一緒だった)が毎週の会議から帰ってくるたびに「へろへろですよ」と言っていたのを思い出す。大学は教育機関でもあるので、今の大学教員の方々は、学生の指導や講義、大学の運営会議などに多くの時間を割かれているのが現実だ。学位を取り、総合格闘技である研究をこなして教員になった彼らは日本の頭脳とも呼べるような人たちなのに、研究に集中できる環境が備わっていないのは問題だよなあと思う。
さらに研究費も獲ってこなければならない。研究職の人は、所属する研究機関から給料をもらうことで生活費をまかない、研究機関から出される少しばかりの交付金と自身で獲得してくる競争的研究費などで研究費を得て研究している。競争的研究費とは、学振や科研費、その他さまざまな組織からの助成金を指す。これらに応募して、採用されれば研究資金が得られるのである。 こうした助成は3年、5年などの期間が決まっていて、〇年目には100万円などというように1年ごとに研究費の予算がつく。申請には、研究の意義や計画を書いた申請書や、それまでの論文や著作物をまとめた業績リストを提出するため、研究を続けるためには、今獲得している資金で業績を出し、アイデアを得て、次の資金獲得につなげる、というサイクルを永遠に廻すことになる。