“トヨタ帝国”に死角はないのか? ダイハツ完全子会社化の戦略を読み解く
1月29日16時11分。すでに株式市場をにぎわしていた「トヨタ自動車がダイハツ工業を完全子会社化」のニュースが、ダイハツからリリースとして配信され、前週からマーケットを騒がせていた噂が事実として確定した。同時刻の時点ではトヨタからのリリースはなし。 【写真】トヨタの自己否定と変革への本気度 「世界に通じるクルマ」へ 同日16時43分。突如トヨタ自動車広報部より「トヨタとダイハツ共同記者会見」というタイトルのメールが届き、19時30分から、日本橋蛎殻町のロイヤルパークホテルで豊田章男、三井正則両社社長の会見が開かれるという連絡が入った。開始まで3時間を切るという緊急記者会見にも関わらず多くの報道陣が詰めかけ、両社長からの説明と質疑応答を含む会見が開かれた。会見の直後、配信時刻表記なしでトヨタからも正式リリースが出た。
ダイハツ株上場廃止とその影響
まずは明らかになった事実から説明する。1月29日、つまり記者会見当日、株式交換契約が両社の取締役会で決議され、同日株式交換契約が締結された。今年の6月下旬のダイハツの定時株主総会で株式交換が決議され、7月26日に取引所での株式売買を終了。翌27日にダイハツ株は上場廃止となる。109年続いたダイハツ工業という会社の株式は、8月1日に1株あたりトヨタ株0.26株と交換され、以後ダイハツの議決権は100%トヨタが保持することになる。これまでダイハツ株を所有していた株主は自動的に交換比率に応じたトヨタの株主になる。法人としてのダイハツ工業は以後、非上場のトヨタ100%子会社として存続していくこととなる。 さて、それによって何が変わるのか? 多くの人たちが注目するのはダイハツ・ブランドがどうなるかという点だ。結論から言えばダイハツ・ブランドは存続し、小型車戦略を担うトヨタの1ブランドとして様々なシナジー効果を上げるのだと説明された。 ダイハツのリリースから当該部分を抜き出してみよう。 以下、引用開始 --------------------------------------- 1.目的 トヨタとダイハツは、共通の戦略のもと、両社の技術・ノウハウや事業基盤を融合することで両ブランドの特色を活かした魅力的でグローバルに競争力のある商品を展開する。 2.協業の概要 <小型車戦略> ・トヨタブランド、ダイハツブランドの差別化を進め、それぞれのお客様にとって最適な商品ラインナップを拡充 ・ダイハツが主体となって、これまで培った現地のお客様目線に立ったクルマづくりや、軽自動車を基盤・基点とした商品企画・技術開発のノウハウ・プロセスをさらに進化させ、小型車領域での両ブランドの商品を開発 <技術戦略> ・トヨタとダイハツは、技術戦略を初期構想の段階から共有 ・トヨタは環境・安全・安心・快適技術面での技術開発を進め、ダイハツはパッケージング力、低コスト技術、低燃費技術に加え、先進技術の低コスト化・コンパクト化を推進 ・ダイハツ独自のクルマづくりのノウハウをトヨタグループ内で共有、上位車種でのコスト競争力にも貢献 <事業戦略> ・新興国市場においては、それぞれの事業基盤を活用しあい、ダイハツが主体となって、開発・調達・生産といったモノづくりをスピーディーかつ効率的に推進 ・国内事業では、トヨタの販売のノウハウやインフラも相互活用し、ダイハツブランド力向上と収益力の両立を図る --------------------------------------- 引用ここまで 当然だがこの引用文は記者会見の内容とも合致する。記者会見で語られたのは、ダイハツの小型車作りのノウハウはトヨタにとって非常に魅力的であり、両社の関係をより濃密にすることでシナジー効果を上げて、よりスピードと効率を上げたグローバル戦略を構築していくという話である。 トヨタとダイハツはすでに約50年前から提携関係にある。今回の完全子会社化にしても「今までも子会社だったのではないか?」と疑問を抱く人が多いだろう。確かに1998年にトヨタは公開買い付けによりダイハツ株の過半を取得して、連結決算上の子会社にしている。今回の変化は連結決算子会社から完全子会社へという変化だ。 従来、株主総会で発言権や議決権を持っていたダイハツの株主は、今後ダイハツの経営に要望があっても、トヨタの株主総会で持ち株数に応じた影響を持つのみになり、株式交換比率と総株数の観点から、その議決権は大幅に薄まることになる。ただし、原理においてはそうであっても、元々株式の過半はトヨタが持っており、トヨタは他株主が全員団結しようともダイハツを支配することは可能だったので、今回の完全子会社化は株主の発言権に注目すれば大きな変化があったとは言えない面もある。 さて、ここまでが事実関係だ。ではここから今回の完全子会社化に対するトヨタの真意がどこにあるかを考えていきたい。