ロッテのレジェンド、初芝清と渡辺俊介が社会人野球監督で直接対決
初芝清、渡辺俊介―。プロ野球ロッテの長年にわたるファンならば心躍る名前だろう。ともにロッテ一筋で一時代を築き、2005年に日本シリーズを制覇した時のチームメートだった。その2人が今、社会人野球のステージで監督同士として切磋琢磨(せっさたくま)している。埼玉県春日部市を拠点とするオールフロンティアの初芝監督と、千葉県君津市が拠点の日本製鉄かずさマジックを率いる渡辺監督。2人にとって社会人野球は、プロで大成する礎となった。だからこそ今、そこに心血を注ぐ。最高峰の舞台となる都市対抗大会出場を争う南関東予選で6月上旬、両チームの直接対決が2試合あった。(時事通信社 石川悟) 【写真】オリックス戦で打席に立つロッテの初芝清=2004年4月 ◆通算1525安打、打点王も 初芝監督 57歳の初芝監督は、現役時代の1995年に打率3割1厘、25本塁打、80打点をマーク。田中幸雄(日本ハム)、イチロー(オリックス)と打点王のタイトルを分け合った。その10年後、ロッテの日本一を見届けて引退した。 東京・二松学舎大付高から東芝府中を経て、ドラフト4位で89年にロッテに入団。勝負強い打撃が持ち味の内野手で、「ミスターロッテ」と称された有藤道世さんの後継者としてチームをけん引。通算で1732試合に出場して1525安打、232本塁打、879打点の成績を残した。 ◆地をはうようなアンダースロー 渡辺監督 およそ一世代下の主戦投手として活躍したのが、現在47歳の渡辺監督だ。地をはうようなアンダースローは「世界一低い位置からリリースする」ともいわれ、チームが日本一の05年シーズンはキャリアハイの15勝(4敗)、防御率2.17と輝きを放った。 国学院栃木高から国学院大、新日鉄君津(現日本製鉄かずさマジック)と歩み、ドラフト4位で01年にロッテ入り。06年と09年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)日本代表にも選ばれた。13年まで通算255試合に登板して87勝82敗。その後は米独立リーグでもプレーした。 ◆都市対抗予選で互いに火花 初芝監督は07年から10年まで、かずさマジック(現日本製鉄かずさマジック)でコーチを務めた。今の渡辺監督がロッテで主力だった時期だ。13年12月にセガサミーの監督に就任し、14年秋には社会人野球日本選手権でチームを準優勝に導いた。22年シーズンからオールフロンティアを率いている。渡辺監督は15年12月に新日鉄住金かずさマジック(現日本製鉄かずさマジック)のコーチとなり、投手兼任で公式戦登板も。20年1月から監督として現在に至る。昨年は都市対抗、日本選手権の両大会で指揮を執った。監督として経験と実績を重ねた2人が、今年の都市対抗予選で火花を散らした。 南関東予選は6月1日から埼玉県営大宮公園野球場で行われ、1回戦で両チームが激突。八回まで0-0と息詰まる展開になった。九回、日本製鉄かずさマジックが吉田開選手の右翼場外への本塁打で均衡を破ると、その裏オールフロンティアも磨龍輝選手が同点ソロ。延長タイブレークの末、日本製鉄かずさマジックが3-2で接戦を制した。初芝監督は「うちは若いチーム。追いつく粘りを見せられたのは成長している証し」と選手を評価。対する渡辺監督は「我慢比べの試合だったが、最後は勝利という結果を残せた」と胸をなで下ろした。 ◆「経験値が上がっていく」 日本製鉄かずさマジックは2回戦で日本通運に敗れて敗者復活戦の第2代表決定戦に回り、その準決勝で再び、オールフロンティアとの対戦が実現した。日本製鉄かずさマジックが序盤から得点を重ね、相手の反撃を断って8-3で快勝。渡辺監督は「都市対抗まで、あと1勝。一気に決めたい」と気合を入れた。敗れた初芝監督は「選手は(トーナメントの)しびれる試合の経験が少ない。ただ、こういう試合をすることで、全国大会出場に向けての経験値が上がっていく」。確かな手応えを口にした。 互いに「試合をするのは選手。相手監督のことは意識していない」と口を揃える。その中で、ロッテでも社会人野球の指導者としても先輩の初芝監督は「(渡辺監督は)投手出身だが、野手のことなどいろいろ勉強しながらやっている」と後輩をリスペクト。その渡辺監督は、「僕も初芝さんも社会人野球出身。ロッテがどうこうというより、今は社会人野球の一員という意識」と強調している。 ◆元プロ、社会人のレベル向上に一役 2度目の直接対決の後、日本製鉄かずさマジックは第2代表決定戦に勝って都市対抗の切符を獲得。オールフロンティアは最後の1枠を争った第3代表決定戦でも敗れ、東京ドームでのプレーは来年以降に持ち越しとなった。 かつては、南海やヤクルトなどを優勝に導いた名将の野村克也さんがシダックスを指導。現在でも、社会人野球の名門、ENEOSは元近鉄の大久保秀昭さんが監督だ。プロ野球の息を吹き込むことで、社会人野球のレベル向上に一役買っている。初芝監督は「今は元プロに門戸が開かれている。元プロの指導者が、自分たちのやってきたことを伝える機会があることは(社会人野球にとって)すごくいいことだと思う」。充実した表情で、そう語った。