自家製調味料×良質素材=旨み倍増! イタリアン百名店が“発酵”をテーマにした新店をオープン
「マグロの脳天とピスタチオ味噌のタルタル」や「パテカン豚の熟鮓と白インゲン豆味噌」「殻付き帆立とポレンタ味噌のさんが焼き」等々、メニューにはその苦労の成果が記されている。中でも、ユニークなのは、ポルケッタ味噌と豚の熟鮓だ。
ポルケッタとは、もともとイタリアの郷土料理の一つで豚の丸焼きのこと。代官山「ファロ」ではスペシャリテの一つで、国産バラ肉を用い、ローズマリーとニンニク、塩のみでシンプルに炭火焼きにしている。
が、ここ「ピュウ・ファロ」では「豚の熟鮓を塗り、フェンネルを巻き込んでいます」と江口シェフ。その熟鮓が奮っている。熟鮓といえば、滋賀の鮒寿司がよく知られているように、日本では鮎や秋刀魚など魚を用いることが一般的。だが中国などでは古くから肉の熟鮓もあったようで、歴史を辿れば肉の熟鮓も決して突飛ではないものの、現代ではそうそう肉の熟鮓は見かけない。
江口シェフによれば「これも、肉の端肉を捨てることなく活用できれば、との思いから始めた」そうで、作り方は単純。挽肉状態にした豚肉と柔らかく炊いた米と塩を合わせて2週間ほど発酵させたもので、それを湯煎にかけて火入れしているそうだ。
大切なのは、糠床のように毎日欠かさず混ぜてやること。微生物も生き物。人との触れ合いが状態の良い熟鮓を生むコツのよう。この熟鮓を巻いて焼き上げたポルケッタは、乳酸発酵ならではの優しい酸味とややエキゾチックな甘やかなフェンネルの香りとが独特の風味を漂わせ、どこか中近東辺りの味わいを彷彿とさせる。
この(焼いた)ポルケッタの切り落としで作る自家製発酵食品が、件のポルケッタ味噌。こちらは米ではなく、糀や塩と共に漬けこんだもので、今回使用しているのはなんと一年もの。「だいたい半年ぐらいから使える」そうだが、それを見越して仕込まなくてはならず、これだけの種類の発酵食品をホームメイドするのは、結構大変なはず。よほどの発酵愛がなければできない仕事だ。