南アフリカを世界一へ導いた鉄壁防御とスクラム
最後まで緑の壁は崩れなかった。 25―12と点差を広げていた後半33分頃。白いジャージのイングランド代表が、ハーフライン付近からボールを展開した。緑のジャージの南アフリカ代表は、隙のない防御ラインを作った。接点へはあまり絡まない。これも南アフリカ代表の防御の特徴だった。 タックルした選手は、すぐに起き上がってラインへ入り、ボールが出るのと、ほぼ同時に鋭く飛び出す。持ち前のフィジカリティでランナーを食い止め、もう一度、起き上がる。それが愚直に繰り返された。大型選手の多い南アフリカ代表は、スタミナの確保が課題になりがちだが、決勝トーナメントでは、身体を当てるフォワードの控えを通常の5名から6名に拡張した。この時間帯も「ボムスコッド」と呼ばれるリザーブが“下働き”で防御を支えた。 前半21分に投入されたフッカーのマルコム・マークスが、相手スタンドオフのヘンリー・スレイドへタックル。手元に腕を差し込み、落球を誘う。南アフリカ代表は、奪ったボールを右へ運び、最後は、身長170センチのウイング、チェスリン・コルビがタックラーをすいすいとかわしてフィニッシュ。この日、2本目のトライに直後のゴールも成功させ32―12と点差を広げて勝負を決めた。 「プレーヤー・オブ・ザマッチ」に輝いたナンバーエイトのドゥウェイン・フェルミューレンは、ノートライに封じた防御の背景を語る。 「圧力をかけ続けることが勝利につながると考えた。試合中、接点に人が入りすぎて防御ラインの幅を保つことが難しい時がありました。解決策として、なるべくラックに入るのは2人までにしようと確認し合っていました」 そのフィジカルとスピードは際立っていた。 2019年11月2日、神奈川・横浜国際総合競技場に、7万103人もの観衆を集めて行われたラグビーワールドカップ(W杯)日本大会の決勝で、エリスカップを掲げたのは、南アフリカ代表だった。3大会ぶり3度目の優勝。 同国初の黒人主将だったフランカーのシヤ・コリシは言った。 「自分の気持ちは説明できません。でも、チームメイトの嬉しそうな顔を見たのが自分の人生でベストな出来事でした」 決勝を前に、コリシは「私たちにはしっかりとしたシステムとプランがある。当日は、その場で見るものに対応する」と、仲間を信じる思いを口にし、燃え上がる気持ちを鎮めようとしていた。