南アフリカを世界一へ導いた鉄壁防御とスクラム
組織防御の徹底だけではなく、攻めては、敵の司令塔を消耗させる戦術を仕掛けた。 標的は、相手の先発スタンドオフのジョージ・フォード。中盤からのキックを捕球させてプレッシャーをかけ、セットプレーからの1次攻撃でインサイドセンターのダミアン・ディアリエンディに突っ込ませた。 心身へのダメージが影響したのか、フォードは、3点差を追う前半26分頃、自陣10メートル線付近中央からの陣地を挽回するキックをミスった。ダイレクトタッチになってしまった。 南アフリカ代表スタンドオフのハンドレ・ポラードは、戦前、相手の弱点を突く考えについてこう示唆していた。 「まだ、いくつか隠していることがあります。お互い、相手を驚かせたいとは思っているはずです。こちらが何をするかは、楽しみにしておいてください」 司令塔潰しが、その隠していた戦術の一つだったのかもしれない。 もう一つの勝因はイングランド代表から何度も反則を奪ったスクラムである。 前半3分のファーストスクラムを左側から押し込んだ左プロップのテンダイ・ムタワリラは、「まず、試合序盤にいいスクラムを組みたかった」と振り返った。 続く6分には、敵陣22メートルエリア付近のスクラムで圧倒した。 直後にフェルミューレンが勢いよくジャッカル。イングランド代表の反則を誘い、ポラードの先制ペナルティーゴールをお膳立てした。 3-3で迎えた25分には、南アフリカ代表がキックオフ直後のプレーによって敵陣22メートル線付近右で自軍スクラムを獲得。やはりムタワリラの側から圧をかけ、イングランド代表の反則を誘った。ポラードのペナルティーゴールで6-3と勝ち越し。フォードがダイレクトタッチを蹴ってしまうのは、その直後のことだった。 イングランド代表は、開始わずか2分で先発右プロップのカイル・シンクラーが頭を打って動けずフィールドから離れていた。スクラムの拠点である最前列をベストメンバーで組めなかったのは誤算だった。 「ボムスコッド」を活用する南アフリカ代表のラシー・エラスムス・ヘッドコーチは、「私たちは、選手全員に同じくらいのプレータイムを与えていた。プレーヤーの疲れを管理することも重要。疲れているとスクラムをうまく組めません。イングランド代表より、私たちの方に元気な選手が多かったのではないか」と、私見を述べる。