南アフリカを世界一へ導いた鉄壁防御とスクラム
敗れたエディー・ジョーンズ・ヘッドコーチは、その仮説を否定。台風により予選プール最終戦のフランス戦が中止となっていただけに、コンディショニングの問題はないとした。 ただし「(シンクラーの怪我は)試合に大きな影響を与えた」とは認めた。 「スクラムで苦しんだことが他のプレーにも影響した」 スクラムで犯した反則が、相手のペナルティゴールにつながっただけでなく、そのダメージは、ジョーンズ・ヘッドコーチが描いていたプランを狂わせた。 連続攻撃中にがら空きのブラインドサイドを狙うなど効果的な動きも試みた。しかし、肝心のパスを繋げられなかった。スクラムでの劣勢を明らかに覆せたのも、後半11分に相手の塊を割った時のみだ。 準決勝ではニュージーランド代表の3連覇を止めるなど大会にインパクトを残したが、ジョーンズ・ヘッドコーチは「機会を捉えたかどうかが試合に影響しました」という。指導者として臨んだ4度目のW杯で、苦い通算3敗目を喫した。 「相手がよくて負けた。そういう日でした」 試合後の表彰式では、ロックのマロ・イトジェが、銀メダルを首からかけることを拒否した。一部の選手は、授与後、すぐにメダルを首から外した。そのイトジェは取材エリアでは「残念な結果には失望しています。日本という国は本当に良い大会を作ってくれましたし、文化も素晴らしい」と言うにとどめた。 かたや栄華に喜ぶエラスムス・ヘッドコーチは、「監督を引き受けた段階で、W杯で優勝するためのプランを提示しました」と、実は約1年半の短期計画の結実であったことを明かした。 エラスムス氏のヘッドコーチ就任は、前任者解任後の2018年3月である。ジョーンズ氏がイングランド代表の指揮官となったのが2015年12月だから時間は遥かに少なかった。 短期間でのチーム改革と進化を強いられるなか、コリシ曰く「我々はオフ・ザ・フィールド全てでラグビーを優先していたわけではなかったのですが、考え方を変えなきゃいけないと言われた」。現指揮官が心掛けたのは意識改革だった。 「ファンは自分の給料で試合を観に来ているのだぞ」 「もしテストマッチ(代表戦)で3連敗するようなことがあれば、我々スタッフは辞任する」 代表としての誇りと責任を自覚させるかのようなハッパをかけ続けた。 その一方、裏では、選手がプレーに集中しやすいように、それぞれの所属先と掛け合うなど奔走した。 戦術的には防御の整備に時間を費やした。エラスムス・ヘッドコーチは、それが世界一へのカギになると考えていた。昨年8月下旬には、アルゼンチン代表に敗れるなど苦境に立たされたが、その約3週間後には、9年ぶりにニュージーランド代表から勝利を挙げた。 今大会では、予選プールの初戦のニュージーランド代表戦を落としながら、準々決勝では前大会で苦杯を喫した日本代表に26-3と力の差を見せつけた。試合を重ねながら首脳陣と選手は、信頼関係を構築させ、戦術が熟し、チームは強くなっていった。 彼らが飛び跳ねながら掲げた金色に輝くエリスカップは、その信頼と成長の証だった。 (文責・向風見也/ラグビーライター)