『海のはじまり』池松壮亮の“津野くん”を「やばい」と思う視聴者はいなくなった理由とは
手に汗握るじわじわ展開。でも、握るのはおにぎり
とりあえず、水季と津野は海を実家に預け、ふたりで出かける。移動のバスのなか、晴明、水季、海の名前の由来を話すとき、夏(summer)が好きだから海?という流れで、水季が微妙な表情をしたり、ファミレスでの食事では、高い食事だと海のことが気になってしまうという話になったり。ことあるごとに、津野と水季の接近には邪魔が入る。 ここで水族館に行ってしまうと、池松主演のラブストーリー『ちょっと思い出しただけ』(水族館デートシーンがある)になってしまうからではないだろうが、プラネタリウムに。その帰り、公園でしばらく話して、さらにいい感じになったふたりは、水季の家へとーー。 これはなにか起こるんじゃないかと思わせるような、手に汗握るじわじわ展開。でも、握るのはおにぎり。 塩を多めにかけてしまった水季が、払おうと津野の手のひらに軽く触れる。恋に慣れていない津野くんの膨らむ一方の期待と、自信が確固たるものとなっていく心情を池松壮亮が巧みに演じている。 お金の不安をこぼす水季に、ついに津野は一緒に暮らす提案をする。交際飛び越えてプロポーズのようになっている。だが水季は「津野さんのこと好きです」「手とか握れます」とか言いながら、ぎりぎりのところでストップをかける。もしやこれって水商売の手口では? 津野の気持ちをさんざん揺さぶって、人が悪いなあと思うけれど、水季がほんのちょっとだけ息抜きしたい気持ちだったとしたら、否定はできない。
結局は、夏のことが忘れられないのかも
海を預けて、足にブルーのペディキュアを塗って、マスカラつけて出かける娘がいつもと違うことに文音(大竹しのぶ)は気づいていたが、とがめずむしろ、たまの息抜きを肯定してくれた。それでも水季は海のことが気にかかってしまう。 だんだんと、子供よりも恋人のプライオリティが高くなり、そのうち、その人の子供が欲しくなることを水季は警戒する。なかにはそのままその欲望に忠実になる人もいれば、水季のように必死に抑制しようとする人もいるのだろう。 傍から見れば、水季の選択が好ましい気がするが、でもそれだとしんどいだろうなあとも思う。だってやっぱりわくわくしたいものだもの。 とはいえ、水季の場合は勝手に夏と別れてシンママになる意地を通しているだけなので、素直に応援し辛いのだが……。 結局は、夏のことが忘れられなくて、やすやすと夏を上書きできてしまいそうな申し分ない津野に心が向かうことを留めているだけなのかも。じつは、水季、ドラマティックなシンママというヒロインの道が思い通りの生き方だったりして。