『海のはじまり』池松壮亮の“津野くん”を「やばい」と思う視聴者はいなくなった理由とは
水季(古川琴音)と津野くん(池松壮亮)、そこまで親密だったの?とびっくりした。 月9『海のはじまり』(フジテレビ系 月曜よる9時~)の特別編『恋のおしまい』は、目黒蓮の体調不良により1週、延期になった代わりのものながら、急遽放送されたものにしては完成度が高かった。
津野株が急上昇する一方、水季株は…
水季と津野のふれあいの物語が、これまでの津野くんのイメージを刷新するもので、彼の一方的な思い込みでは決してなく、かなりいいところまでいっていたことが判明。津野があれだけ落胆し、水季や海に執着する理由がよくわかったと労(ねぎら)いたい気持ちになった。 津野株が急上昇する一方で、水季の気持ちもわかりたいけれど、やっぱり他人を振り回し過ぎだなあと水季株はちょい下げか。 夏(目黒)と別れシンママとなり図書館で働き始めた水季は、親切な津野と接近していく。お弁当におにぎりを多めに作って持参したり、あとから出勤してきた津野を、スニーカーの靴紐を結びながら待ち伏せし、連れ立って出勤したり。 そこから昼休の場面から水季の家の場面まで、もしかしたら『海のはじまり』史上、過去いちエモかったのではないだろうか。 水季は、津野の分までおにぎりを握ってきたものの、津野がカップ麺を取り出したので、おにぎりをしまう。一方の津野は、コンビニで新作お菓子・みかんグミを買ったら、すでに水季が購入済みだったことに気づき、渡しそびれる。渡すタイミングを見失いこっそり後ろ手に隠すことはあるあるで、がぜん水季と津野に親しみがわいた。
はっきりしない時間こそが甘酸っぱく楽しい。まさにみかんの味
津野がカップ麺だけでなくコンビニおにぎりも取り出すので「食べるんだ」と水季はつぶやき、そこからふたりは休日「ふたりで」どこかに行こうという話をしはじめる。だがこれがおそろしく煮えきらない。 「ちょっといま自制かけてて」「津野さんのこと好きにならないように」などと水季はずるいことを言いながら、おにぎりを差し出す。と、それまで遠くに座っていた津野は水季に近づいて、みかんグミを手渡す。そこで水季は思いきって「行きます」と決意する。渡せないまま気持ちを抱えるのではなく、おにぎりとみかんグミが相手に渡せて、早くも一歩前進。 言葉数少なく、ぽそぽそと似たような単語を行ったり来たりさせながらしゃべるリアルな会話は、まるで、今年、惜しまれつつ閉館したこまばアゴラ劇場からはじまった現代口語演劇のようである。 恋のはじまりにありがちな、どちらからもはっきり決定できず、でも、内心、互いの好意をうっすら感じていて、その安心ゆえにわざとずらし合いを楽しんでいるようなところもあるだろう。こういうはっきりしない時間こそが甘酸っぱく楽しい。まさにみかんの味である。 むしろ、はっきりつきあうという結論が出てしまうと、覚めてしまいそう。蛙化現象なんていうのもそのひとつかもしれない。