ホンダ「0」ならNSXもS2000も味わえる!? クルマのデジタル化はここまできてる!!
AIがドライバーを支える未来がすぐそこに
「0」シリーズではさらに、Bピラーに内蔵したカメラで、クルマに近づいてくる人を認識し、乗車意図有無の判定と顔認証を実施。たとえば事前に登録したユーザーがひとりでクルマから1m以内まで近づいた場合は自動でドアロックを解除し、運転席ドアを開ける。 逆に事前登録したユーザーではない人が近づいた場合は、乗車意図はあると内部で判定しつつ、ドアロック解除や運転席ドアのオープンは行わないよう制御される。 なお、このUXには、空港の出入国審査で用いられているアルゴリズムを車載向けにチューニングした画像認証システムを実装。高いセキュリティレベルを担保しつつ、スマートフォンによる同様のシステムよりも高い本人受入率を達成したという。 さらに、このシステムには独自の行動予測アルゴリズムを実装。たとえば登録ユーザーがベビーカーに子どもを乗せてクルマに近づいた場合は、先にリヤドアを開けて子どもを後席に乗せやすくし、その後リヤドアを閉めつつバックドアを開けてベビーカーを荷室に積みやすくする。そしてベビーカーを載せ終わるとバックドアを閉めつつ運転席ドアを開け、ドライバーである登録ユーザーを迎え入れる。 また、車内に乗り込んだあとも「In-Cabinエージェント」が、ルームミラー付近のキャビンカメラで車室内の様子をモニタリングし、乗員の表情まで含めた状態変化をリアルタイムに検知。画像認識と生成AIで状況を理解し、先まわりして次に取るべき行動をユーザーに提案する。 この「In-Cabinエージェント」の説明では、ドライバーに扮した説明員が運転席に、犬(のぬいぐるみ)を抱えた説明員が助手席に乗り、これに渋滞した道路を走行中の外部映像を掛け合わせて、AIにシーン理解をさせるデモンストレーションを実施。ふたりの説明員の表情を検知すると、「In-Cabinエージェント」はドライバーが疲れ、同乗者は緊張していると判定し、休憩スポットの検索や助手席マッサージ機能の起動、エアコン設定温度変更といった操作を自動で行う様子や、道の様子やドライバーの表情をAiが読み取るデモンストレーションが披露された。 このように、ユーザーが何もせずとも、クルマのほうがユーザーの意図を先読みして行動してくれる、そんな心遣いに満ちたストレスフリーな体験ができるようになるのだ。 そして、昔からのクルマ好きであればあるほどBEVに対して抱きやすい不満を解消すべく、「楽しさの最大化」を図るデジタルUXも開発が進められている。そのひとつが、ホンダ車の実車からサンプリングしたパワートレインのサウンドを、アクセル開度や踏み込み時間に応じてスピーカーから出すというものだ。 これだけであれば、いまやスポーツカーでは一般的になりつつあるサウンドエンハンサーの延長線上にある効果だが、ホンダが開発中のシステムがすごいのは、ステアリングやシートから振動を発生させることも可能というもの。さらに、メーターグラフィックも選択した車種のものに切り替わる。しかも、今回取材したHonda eのテスト車両では、S2000、現行型のシビックタイプR、初代NSX-R、2代目NSXタイプSに加え、これはお遊びか、なんとホンダジェットも選ぶことができた。 さらに、今回は試せなかったが、パドルスイッチの操作に合わせてMT車さながらにシフトチェンジ時のショックやトルク抜けを再現することもこの技術では可能なのだとか。 なお、肝心のサウンドのクオリティは、現状ではデモ機ということもあってか、「グランツーリスモ」シリーズなどのレーシングゲームより数段落ちるというのが率直な印象。だが今後、より本格的に録音を行い、搭載するオーディオの音質を高め、車内の音響特性もこのシステムを搭載する前提で作り込めば、ホンダが生み出してきた名機の感触を、BEVでも堪能できるようになると期待せずにはいられない。 このほかにも、シビックR用データロガーアプリ「Honda LogR 2.0」の運転スコアリング機能をスマートフォン内蔵センサーだけで実現した「Road Performance」のトライアル版が、2024年7月にリリース。 さらには、VR(仮想現実)ヘッドセットなどを装着することで、クルマから離れた場所にいても、実際に走行中のクルマに同乗しているのと同様の体験ができる「Cross Reality Virtual Ride Experience」も開発中だ。 こちらは実際に体験デモコーナーが設けられたが、栃木・高根沢にいながら横浜・みなとみらいにいるアコードでドライブ中のスタッフと、車内の映像を見ながら会話することが可能であった。しかも、立ち上がればサンルーフから頭を出したかのような景色が、さらに180°後ろを向けば車両後方の景色も一望できるという、リアルを超えたドライブ体験をすることができた。 今回紹介したAD/ADASやデジタルUXに関する新技術には、「0」シリーズ以外の既存車種にも転用可能と思われるものや、さらなる機能の進化や追加の余地があるものも多く含まれていた。「0」シリーズ以外も含めた今後のホンダ車の進化を楽しみに待ちたい。
遠藤正賢