『ランボー』アクションヒーローというよりアンチヒーロー!? 乱暴なだけではない傑作 ※注!ネタバレ含みます
シルヴェスター・スタローン、キャリアの分岐点
※本記事は物語の結末に触れているため、映画をご覧になってから読むことをお勧めします。 アクション映画界のレジェンドとして、確固たる地位を築いたシルヴェスター・スタローン。そんな彼の代表作として、誰もが思いつくのは『ロッキー』シリーズに加え、『ランボー』シリーズだろう。おりしも2024年には初期の同シリーズ3作が4Kレストア版で劇場公開された。本稿では1982年に製作された第一作『ランボー』について検証する。というのも、本作はスタローンにとってキャリアの分岐点となったうえに、ただのアクション映画には終わらない重みがあるのだから。 まずは簡単にストーリーのおさらい。スタローンふんする主人公ジョン・ランボーはベトナム帰還兵。戦友を尋ねて田舎町を訪れた彼は、“トラブルを起こしそう”という根拠のない理由だけで保安官に追い出されそうになり、逆らったと留置所に叩き込まれる。ヨソ者に冷たい、閉鎖的な町ではありがちなこと。しかし反撃したランボーは脱獄して山地へ逃げ込み、追ってくる警官隊や州兵と攻防を繰り広げる。このとき警官たちは知らなかった。ランボーが特殊部隊グリーベレーの一員で、とてつもない戦闘能力を持った元兵士であることを。 原作は1972年に発刊されたデイヴィッド・マレルの小説「一人だけの軍隊」。これは発表後、すぐにハリウッドで評判となり、映画化権が売られた。しかし、ロバート・デ・ニーロやクリント・イーストウッド、アル・パチーノ、ジョン・トラボルタ、スティーヴ・マックィーンなど主演候補はコロコロと変わり続けて製作は難航。結果、スタローン主演による映画化版が公開されるまで、10年の月日を費やすことになった。
ロッキーを背負うスタローンのイメージに合わせた主人公像
スタローンは当時、『ロッキー』(76)とその続編『ロッキー2』(79)で人気者となり、監督業にも進出したが、同シリーズ以上のヒット作を生み出すことは容易ではなかった。本格的なアクションとしては初の主演作となったポリスストーリー『ナイトホークス』(81)もポテンヒットに終わる。彼にはホームランが必要だった。そんなときに出会った『ランボー』が、彼の俳優人生を大きく変えることになる。 スタローンが『ロッキー』で体現した人間的な魅力を生かすべく、脚本は書き換えられた。その最たる例が、この映画ではランボーが故意に人を殺さないこと。原作のランボーは生き延びるために何人かを殺害する。しかし、それはロッキー・バルボアならば決してやらないこと。劇中ではランボーを攻撃した警官が反撃されヘリから墜落死するが、それも正当防衛に見えるよう描写には細心の注意が払われている。 ランボーが過酷な戦場でPTSDを負ったという設定にも、スタローンの人間的なキャラクターが表われている。ランボーはまったく犯罪行為をしていないのに、逮捕され、投獄され、いたぶられる。このとき、彼の脳裏にはベトナムで受けた壮絶な拷問が脳裏をよぎるのだ。兵士の本能が甦ったランボーは反射的に警官たちをのしてしまう。これが彼の悲劇の始まりだった。