「マシン・エイジ」に機械と人間が見る夢とは?|青野尚子の今週末見るべきアート
機械の美を愛でる。今から100年前に生まれたトレンド「マシン・エイジ」をテーマにした展覧会が箱根の〈ポーラ美術館〉で開かれています。機械と人間の出合いのさまざまな様相を表現するデザインやアートが並びます。 【フォトギャラリーを見る】 今から約100年前。1920年代、急激に工業化が進んだパリでは機械の美を讃える「マシン・エイジ」と呼ばれる時代を迎える。1850年代以降、蒸気機関車で旅に出る人が増え、第一次世界大戦後には馬車にかわって自動車が普及し、飛行機産業も発展した。それまでにないスピードで人や荷物を運ぶのりものや蓄音機といった機械に人々は夢中になる。
その中のひとりが彫刻家のコンスタンティン・ブランクーシだ。マルセル・デュシャン、フェルナン・レジェと一緒に航空機の展示会に出かけた彼は、プロペラの流線型の虜になってしまった。1920年代に制作された「空間の鳥」シリーズは空気を切って飛ぶ飛行機の翼やプロペラを思わせる。この作品を個展の際、アメリカに送ったところ、無税の芸術作品ではなく機械部品とみなされて課税されたという“事件”もあった。後に裁判でブランクーシは勝訴し、無事に税金を取り戻している。会場には実際の機械部品も並んで、その美を競う。
第一次世界大戦に従軍したフェルナン・レジェは太陽光を反射してきらめく大砲の砲身に美を見出した。彼は「マシン・エイジの芸術家」を自認し、《鏡を持つ女性》を始めとする工業製品のパーツを組み合わせたような絵画を描いている。鏡に見入る女性はティツィアーノやベラスケスら多くの画家が描いた古典的なモチーフだ。20世紀の女性も同じ仕草をしているけれど、その姿はかつての女性とは異なる「マシン・エイジのミューズ」だ。
ブランクーシ同様に飛行機に魅せられたロベール・ドローネーの絵には回転するプロペラを思わせる円盤が頻出する。彼は1937年のパリ万博で航空館と鉄道館の壁画を担当した。展示室ではドローネーの作品と蓄音機が取り合わされている。レコードと相似形をなすドローネーの円盤に着目したものだ。写真や映画と同様に、レコードという複製技術が芸術とみなされるようになった時代背景に言及している。