「マシン・エイジ」に機械と人間が見る夢とは?|青野尚子の今週末見るべきアート
「マシン・エイジ」はアール・デコの時代でもある。その前の「アール・ヌーヴォー」が虫や植物から引用した有機的な曲線に彩られていたのに対し、通称「アール・デコ博」とも言われた1925年の『パリ現代産業装飾芸術国際博覧会』では幾何学的な建築や装飾が来場者を魅了した。
ルネ・ラリックの香水瓶は型抜きガラスで量産されたもの。このやり方なら大きな建物や客船にたくさん取り付けられるシャンデリアなどにも対応できる。同じころ、バウハウスのデザイナーやル・コルビュジエも量産家具のデザインを進めていた。それらは「アール・デコ」とは違うテイストだが、こちらも機械化に対する応答の一つといえる。
杉浦非水は日本のグラフィックデザイン、とくに広告デザインの先駆的存在だ。1910年代から活躍し、とくに三越百貨店のポスターで注目を集めた。「三越の非水、非水の三越」ともいわれたほどだ。彼は1923年にヨーロッパに遊学し、帰国後はアール・デコのエッセンスをとり入れたデザインを手がける。《ポスター「東洋唯一の地下鉄道」》では主役であるはずの地下鉄が、やや極端なパースで遠くに描かれる。最新鋭の地下鉄が新しい時代を連れてくる、そんな期待感に満ちている。
1927年、フリッツ・ラング監督の映画「メトロポリス」が封切られたことなどをきっかけに日本ではロボット・ブームが巻き起こる。写真だけで紹介された西洋のロボットはどんなふうに動くのか、人々の関心を集めた。古賀春江の《現実線を切る主智的表情》はマシンガンを構える女性と馬に乗るロボットという、ちょっとチグハグな情景を描いたもの。映画という複製芸術が絵画に影響を及ぼした一例でもある。
展覧会の最後には"21世紀のマシン・エイジ"にふさわしい現代のアーティストが登場する。ラファエル・ローゼンダールの作品はインターネット上でユーザーが画面をクリックするとそれに応じて色面が分割されていくというもの。ムニール・ファトゥミの映像作品はたくさんの歯車が回転するように見えるが、よく見るとそれらはアラビア文字のカリグラフィーでできている。偶像が厳しく禁じられているため文字で美しく装飾されているイスラム教の書物や建物を思わせる。"セクシー・ロボット"で知られる空山基の近作は彼が描くロボットを立体化したもの。宇宙空間を漂うロボットなのか、コールド・スリープから目覚めたところなのか、SF的な光景が広がる。