ステーブルコインは為替リスクをなくし、グローバル金融システムをより安全にする
今も存在する外国為替決済リスク
1974年、ドイツ規制当局は、為替決済を履行できなかったヘルシュタット銀行を清算した。時差とグローバルな決済テクノロジーの欠如が、同銀行の破綻につながった。同行の破綻と他の銀行の破綻を受け、各国の中央銀行は同年、銀行の自己資本、流動性、資金調達に関する基準を設定するためにバーゼル銀行監督委員会を設立した。 それから50年、いわゆる「ヘルシュタット・リスク」は外国為替決済リスクを表す言葉となり、バーゼル銀行監督委員会は自己資本規制基準を定めることで、グローバルな銀行監督の強力なフォーラムとなった。同委員会の規則は、銀行の業務に伴うリスクを基に、銀行が十分な自己資本を確保することを目的としている。 だが、1日あたり7兆5000億ドル規模のグローバルな外国為替市場には、依然としてヘルシュタット・リスクが存在している。金融サービス業界がインフラの近代化を模索する一方で、多くの通貨の決済には依然として2日もの時間がかかっている。また、700兆ドル規模のデリバティブ市場においては、毎日バッチ処理で決済を行うという遅々としたプロセスは、市場のリアルタイムのボラティリティに追いつくことはできない。
即時決済を実現するステーブルコイン
だが、テクノロジーの飛躍的な進歩によって、決済リスクを過去のものにできるかもしれない。ブロックチェーン技術が果たす役割は極めて重要だ。ステーブルコインは、米ドルなどの法定通貨に連動し、ブロックチェーン上で決済を行うように設計されたトークンであり、現在では、決済の遅延を数日から数秒に短縮することができる。ステーブルコインが全面的に採用され、ヘルシュタット・リスクが過去の遺物になれば、世界の金融システムはより健全なものになるだろう。 ステーブルコインにもリスクはある。認可を受けていないステーブルコインは、設計上の欠陥や発行者が準備金を預けた銀行の破綻により、過去に「デペッグ(ペッグの逸脱)」を起こしたことがある。しかし、透明性と必要な準備金の基準を求める強力な政策と慎重な規制により、こうしたリスクは軽減される。銀行の支払不能リスク(暗号資産市場ではなく、伝統的な市場に起因する問題)は、より効果的な資本基準、多様化、またはステーブルコインの準備金の破綻からの隔離を可能にする政策によって軽減できる。 ステーブルコインに関する政策や規制は、現在、世界中で導入されつつある。先月、EU(欧州連合)では、暗号資産市場規制法(MiCA)が施行され、ステーブルコインに関する規制の枠組みが発効した。米国はまだ国家としてのアプローチを策定中だが、英国やシンガポールなどでも独自のステーブルコイン規制を開始している(編集部注:ご存知の通り、日本は世界に先駆けてステーブルコインを法制化している)。 適切に規制され、高品質な準備金によって裏付けられたステーブルコインは、ブロックチェーン上で即時かつ同時決済が可能であり、義務が即座に履行されるため、カウンターパーティリスクを低減することができる。決済から担保、為替市場に至るまで、これは間違いなくグローバル金融システムの安全性と健全性を向上させる。