ドイツ6部のアマチュアクラブとミズノがコミットした理由。岡崎慎司との絆が繋いだ新たな歴史への挑戦
「チームアパレルビジネス」との掛け算
「まずわれわれとしてはビジネス面で考えたときに、岡崎さんのビジョンが本当に将来的にうまく軌道に乗って動き出すのであれば、いろいろと協力させていただけることがあるかもしれないし、ウィンウィンの関係を築ける可能性も大いにあります。それにスポーツで社会貢献するという大義も非常に重要視しています」 加えてミズノヨーロッパが柱として考えている取り組みの一つが「チームアパレル」だ。プロクラブではなく、一般カテゴリーのあらゆる種目の、あらゆるクラブにユニフォームや移動用のスウェットを販売するビジネスが、この10年で実に売り上げが20倍ぐらいになってきているのだという。 「ものすごく成長著しいんですよ。欧州内の工場でオリジナルユニフォームをクイックに作成できる仕組みが整ったり、欧州内に倉庫を持って、そこで在庫している商品をクイックにデリバリーできるようになっています。この両輪が整ってきたので、それに付随してビジネスは少しずつステップアップできています。 ラツィオ、ボーフム、アウクスブルクを初めとするヨーロッパのトップクラブでのブランド露出によるシャワー効果に、ドイツ6部で奮闘するバサラマインツの一般カテゴリーにおけるアプローチによるボトムアップ方向での波及効果が期待できるのではないか、と。 この両輪をいまの整ったわれわれのチームアパレルビジネスに掛け算することで、もっともっと伸ばしていきたいという思いがあります」
エモーションを大きく揺さぶった岡崎慎司の熱い言葉
企業としてロジックの部分でビジネス的なメリットや将来への見通しを精査したうえで、その先に見える景色に可能性を感じたからこそ、ゴーサインが出たというのが背景にある。ただ中田も、そして岡崎から話を直接受けたミズノ本体の執行役員であり、ミズノヨーロッパの社長でもある岡本充博も、込み上げる思いをクールに抑え込もうとするのに必死だったのかもしれない。 「岡崎さんからは今後の壮大なビジョンと具体的な事業計画をプレゼンしていただきました。その時点では『一旦持ち帰らせていただきます』という感じだったんですけども、実は社長の中ではもう気持ちは決まっていたんです。『最高のユニフォームを作って、絶対に岡崎さんにご提供する!』と」 岡崎は2005年から実に20年近くミズノブランドのオフィシャルアンバサダーとして、サッカー用品に関する改良や開発に対するアドバイスのほか、ミズノ商品全般の宣伝・広報活動にも精力的に協力してきている。欧州に戦いの場を移してからも、ピッチ上での戦いぶりだけではなく、さまざまな場面でその価値を向上させ、広めてきた。そのことへの感謝、さらに日本人として厳しい世界の舞台でここまで戦ってきたことへのリスペクトがあるのは間違いない。 だが、岡本や中田のエモーションを大きく揺さぶったのは、いまも忘れられない岡崎からの熱い言葉があったからだ。時は9年前のドイツ・ミュンヘン。当時のミズノヨーロッパのオフィスへ直接あいさつに来た岡崎は、これから始まるプレミアリーグでの戦いを前にこんな言葉を残していたという。 「岡崎さんはあの時、『日本人の誇りを持って、世界の舞台で挑戦しています。一歩ずつこれからも上がっていきます』と話されたんですが、さらに加えて、『きっとミズノさんも同じ思いだと感じています。だからこれからも同じベクトルでサポートお願いします』って、僕らに本当にまっすぐなメッセージをくれました。感動しました。社長はこの9年間ずっとそれを覚えていたんです。もちろん、私もです」 企業として一度は持ち帰り、落ち着いて精査をするのは当然のこと。ビジネスサイドからのロジックの構築は必須。だが、そんな男気に応えたいという純粋な思いがとどまることなくあふれ出たことだろう。