ネットの宿泊仲介サービスで議論 自宅に旅行客を泊めてはダメなのか?
(3) 旅館業法との関係 我が国には昭和23年に旅館業法が作られ、「寝具を使用させて、宿泊料を受ける」営業については、原則として都道府県知事の許可が必要となります(旅館業法第3条第1項)。自宅も旅館に当たるの?と疑問に思うかもしれませんが、この法律では、対象となる施設について「ホテル」、「旅館」、「簡易宿所」に分け、「ホテル」にも「旅館」にも該当しないものは「簡易宿所」と解釈されているようなので、自宅に旅行者を泊めて宿泊料をいただいても形式的には旅館業に抵触する可能性があります。無許可で旅館業を営んだ場合には、6か月以下の懲役または3万円以下の罰金に処せられることになり(旅館業法第9条)、実際、昨年5月には、足立区で、ネットの宿泊サービスを利用して観光客を泊まらせていたイギリス人が摘発されています。したがって、旅館業法違反となるリスクを避けるためには、都道府県知事の許可を取得するのが安全ということになりますが、都道府県知事の許可を得るには、トイレを男女別にしたり、一定の広さの客室を設けたりしなければならず、かなりハードルが高いということができます。 大家さんや管理組合、他の入居者との関係については、民間の契約の問題または近隣関係の問題ですので、やむを得ないとしても、旅館業法上の規制までする必要があるか?という点は議論のあるところです。
我が国は、国民に自由な経済活動を保障していますので(憲法22条、29条)、それに対する規制は必要性が認められる合理的な範囲にとどめなければなりません。旅館業法上の規制を正当化できるとすれば、不特定多数の者が宿泊するホテルや旅館の場合、宿泊者の安全や衛生管理のために行政的な規制を及ぼすことが必要だからでしょう。そうだとすれば、自宅などに少人数の旅行者を泊める場合には、安全性や衛生面はそれほど問題とならないので、現状の旅館業法のようなハードルの高い規制を及ぼす必要はないとも考えられます。旅行者側もホテルや旅館並みの安全性や衛生管理を期待していないでしょう。 この観点から旅館業法を読むと、自宅等については、「ホテル」でも「旅館」でもなければ「簡易宿所」に該当する、とは定めていないことに気が付きます。 旅館業法第2条第4項は、「簡易宿所営業」について「宿泊する場所を多人数で共用する構造及び設備を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊する営業で、下宿営業以外のものをいう。」と定義しており、対象となる施設としては、『多人数で共用する』ことを前提としている施設という積極的な意味内容を盛り込んでいるのです。 したがって、自宅は、宿泊場所を多人数で共用することを前提にしていないから、2~3名程度の少人数を宿泊させる程度であれば、「簡易宿所」に該当せず、旅館業法上の規制は及ばないと解することも、無理とは言えないという議論もあり得ます。