第162回芥川賞受賞会見(全文)古川真人さん「何でこうなっちゃったんだろう」
あのころの自分に伝えたい言葉は?
読売新聞:読売新聞の鵜飼です。おめでとうございます。大学を中退されてから新潮新人賞を取られるまでの間に、今日のような日が来るんじゃないかということを考えたり、夢見たりされたことがあったのかということと、もう1つ、6年間ぐらいですかね、の時間の間に、いろんなことを考えてたと思うんですけども、あのころの自分に今の自分からなんか伝える言葉があるとしたら、どんな言葉を伝えてやりたいっていうふうに思いますか。 古川:大学中退後にこういう場が、自分が立ち会うことになるのかというのは、妄想っていうのは、こういう場があったらいいな、でもあり得ないよなっていう、そういう、たぶん裏に裏打ちされてる否定があると思うんですけど、そういうのはたぶん考えてたりはしたんだと思います。あり得ないこととして。もう1個、もし自分が、若い、ごろごろしてるころの自分に言いたいこと、なんとかなったなっていうことだと思います。 読売新聞:もう一声ないですか。 古川:もう一声? なんとかなったから、そのまま寝ててもいいんじゃない? ぐらいのことは、たぶん。 司会:ありがとうございます。それでは最後の質問とさせてください。挙手をお願いいたします。それでは、こちらの方。
これまでの歩みを振り返ってどう思うか
共同通信:共同通信社の【スズキ 00:20:35】といいます。このたびはおめでとうございます。すいません、先ほどから少しお話が出てるんですけど、これまで島のお話を書いてきて、今回、4度目の候補ということで、これまで落選を重ねる中で、何か別のものを書こうかとかって悩んだりとかしたことはなかったのかということと、あと、今回それで受賞に至ったわけですけれども、振り返ってみて、これまでの歩み、続けてきた歩みというのを振り返って、どのような思いを抱かれますでしょうか。 古川:まず、最初のご質問はあれですよね、ほかの趣向のものをなぜ書かなかったのか。それは、僕自身が思ってたのは、手札がない。なんでも主人公が、まず、がらっと変わって、登場人物も全部変わって、あと語り口も全部変わってというのをやれる作家さんももちろんいらっしゃる。なんか言語の運動神経がいいような、生まれつき、しかもいいような人が、自分はそうじゃないっていうのはつくづく、ずっと思ってたもので。 なんだろう、俺の中ではあくまでも、自分の認識では鈍重に同じことを、しかもくどくど、でも、希望的というか自分の中で読んでほしいと思っている人に向かっては、もし読んでもらったらとっくりと伝わっていくような、遅い歩みの書き方っていうのしか、自分はできないんじゃないかというか、自分はそういうのにしか向いてないんじゃないかというのがずっとあったものですから、だから、途中でちょっと違うのを書いてみよう、みたいな、そういう器用さははなから自分に持っていなかった。それで、もう1つはなんでしたっけ? 共同通信:今回、受賞して、今から振り返ってその歩み、このような歩みを感じたということについてどのように感じたというか。 古川:一番初めに、率直な感想というか気持ちは? と言われたときの、予想外な感じとしてびっくりしたというのと、やっぱそれはたぶん同じです。自分がこれしか持ってないから、延々これを書いてこうって思ってる気持ちと、いつか通ずるだろうっていうのはまたちょっと違っておりましたので、やっぱり、なんて言うのかな、あまりまだ、自分の中で言葉としてできておりません。
何か言い残したことは?
司会:ありがとうございました。これにて質疑応答のほうを終了させていただこうと思います。古川さん、もう一言、何か言い残したことがあれば。 古川:言い残したこと。 司会:ございませんか。 古川:いや、言い残したことは特にございませんので。 司会:ありがとうございます。じゃあこれにて記者会見のほうを終了させていただきます。古川真人さん、ありがとうございました。 古川:はい、ありがとうございます。 司会:ありがとうございます。どうぞ拍手をもって【お送り 00:24:26】ください。ありがとうございます。 (完)【書き起こし】第162回芥川賞受賞会見