「トランプ政治」の方向性は? 固まりつつある政権顔ぶれ
「反オバマ」色は強くにじむ
第五に、「反オバマ」色が強い点だ。トランプ氏は人事についてオバマ氏にも何度か相談しているようだが、顔ぶれを見ると、オバマケア批判の急先鋒であるトム・プライス氏(下院議員、元整形外科医)を厚生長官に、オバマケアや最低賃金引き上げに反対するアンドルー・パズダー氏(大手ハンバーガーチェーンCEO)を労働長官に、気候変動に懐疑的なスコット・プリュット氏(オクラホマ州司法長官)を環境保護局(EPA)長官にそれぞれ指名している。民主党は強く反発しているが、逆に共和党は大喜びであろう。
共和党主流派との「パイプ役」も
第六に、そして、これが最も重要だが、共和党主流派とのパイプ役が多いという点だ。トランプ氏は党内のアウトサイダー系候補として主流派への不平不満や対決姿勢を露わにし、亀裂を深めた。今も主流派にはトランプ氏への禍根が残っており、エイブラハム・リンカーン大統領やロナルド・レーガン大統領を輩出した「偉大な伝統ある党(GOP=Grand Old Party)」がトランプ氏に乗っ取られるのではと危惧する声が強い。当然、トランプ氏としても共和党が多数派を占める議会からの協力なくしては政権運営が難しく、すぐにレイムダック化しかねない。 その意味では、下院の外交委員会委員や共和党会議の議長を歴任したマイク・ペンス副大統領(インディアナ州知事)や共和党全国委員長を務めたラインス・プリーバス大統領首席補佐官(=ホワイトハウスの事務方のトップ)の存在は大きい。先述したチャオ氏はブッシュ前政権下で労働長官を務め、夫は共和党の重鎮ミッチ・マコネル上院院内総務である。ヘイリー氏、ポンペオ氏、セッションズ氏ら現職の共和党の知事・議員も少なくない。彼らを通して、ブレ幅が大きく、また過激なトランプ氏の言動がある程度落ち着いたものになることが予想される(それでもときとして半ば確信犯的に議会を挑発することはあるだろうが)。 トランプ氏が台湾の蔡英文総統と歴史的な電話会談を行ったこと、そして中国からの抗議に対してツィッターで反論した際、「(南シナ海に)巨大な軍事施設を建設することに関して、われわれに了解を求めたかといえば、そうは思わない」と珍しく安全保障的含意のある言動を取ったことは、トランプ氏の側近や親台派が多い議会共和党の声に応えたものと思われる。