42歳で乳がん宣告された私。抗がん剤で抜けた髪が生えてきてギョッ!鏡を見るとそこにいたのは
偶然見つけたオレンジ色のスカート
もともと洋服好きでしたが思い返せば、メンタル不調になってからは、服を選ぶ気力もなくなっていました。外出の際には、何年か前に買ったシワにならなさそうな服を毎回着ていました。靴も毎回同じ黒いスニーカー。けれどこの白髪染めの一件以来、なんとなく素敵な服が着たいと思うようになりました。 ある日、通りすがりのお店で、ハッとするようなオレンジ色のスカートがウインドウにディスプレイされているのを見つけて、吸い寄せられるように店内へ。「思い切り明るい色の服が着たい」と思い、そのオレンジのスカートを試着。スカートに合わせた明るい柄のストールも巻き、鏡に映った自分を見てまた「うわぁ、いいかも」と気持ちが明るくなり、そのスカートを購入しました。 少しずつ気持ちが戻ってきたのは、息子の塾が決まったことも大きな理由だと思います。今まで悩んでばかりで何事もうまくいかず、闇の中でもがいていたけれど、目先のやるべきことが決まったことで、悩むだけでなく具体的な行動が伴うようになったことが良かったのかもしれません。 やっと息子の塾が決まったので、少し遠い塾までの送迎をするために、ペーパードライバーのわたしは運転の練習を始めました。ものすごく怖がりなので、初心者マークを貼って、ひとりで何度も塾までの道を往復して猛練習。週に3回、息子の塾送迎をするルーティンが始まり、塾が終わるのを待っている最中に、車を停めたショッピングモール内で買い物をして時間をつぶしたり、なんというか「普通の人」っぽいこともできるようになってきました。
お惣菜がおいしそうに見えるように
モールで時間をつぶしていると、食品コーナーのお惣菜もおいしそうに見えてくるようになった自分にも気づきました。「わぁ、おいしそう。食べたいなぁ」と自然に感情が沸き上がってくる自分が不思議でした。だって数か月前まではご飯を食べることさえ面倒で、仕方なくキッチンに立って手づかみで白米をむさぼっていたのですから。 そうやって徐々に自分の人間らしい「欲」みたいなものが復活してくるのを感じました。わたしは本来あちこちに興味があり、やりたいことも、欲しいものもたくさんある。やりたいことは必ずやる、欲しいものも買っちゃうという性格。悪く言えば浪費家の面があり、我慢ができない自分を責めることもありました。特に夫が倹約家だったので、お金の管理ができないことにコンプレックスや罪悪感を抱いたこともあります。 けれど乳がんになり治療の途中でメンタルをやられ、どん底の無気力を経験したことで、「美味しいものが食べたい」「旅行に行きたい」「おしゃれがしたい」などの欲が出るのは、心身ともに元気な証拠だと身をもってわかりました。 それまでの時期は本当に息をするのもつらかったけれど、それを経て、「ご飯をおいしく食べる」といういつもの行動が実は「かけがえのない生」であると気づけたわたしは、もしかしたら幸せ者なのかもしれません。