宇宙飛行士の若田光一が語る「民間が拡げる」人類の宇宙活動領域
アクシオム社が開発を進める月面探査用の宇宙服「AxEMU」
また弊社は、ISSへの民間人ミッション「AX」(アクシオム・ミッション)を、2022年から3回に渡って行うなど、宇宙アクセスの再定義にも取り組んでいます。このAXで最も重要なのは、ISS運用のパートナー国以外にも宇宙への門戸を開いている点にあります。これまでに8カ国とESA(欧州宇宙機関)のクルーがAXによってISSを訪れ、50を超える研究パートナーからの提案による105件の実験を完了しています。 アクシオム・ステーションを新たに運用するには、宇宙飛行士の訓練、実験装置の整備、地上管制スタッフの訓練、さらには各国の宇宙機関との連携などが必要になりますが、AXはそのトレーニングの場としての役割も果たしています。AXによって経験を蓄積し、ISSが退役するときには世界中のユーザーが、私たちが構築した新しい宇宙プラットフォームをすぐに活用できる、そんな状況を目指しています。 ■アクシオム社の宇宙服 私たちアクシオム社では、月面探査用の宇宙服「AxEMU」(アクシオム船外活動ユニット)も開発しています。2026年にアルテミス3計画で米国人宇宙飛行士が月に降り立つときに着用するのもこのAxEMUです。 私は先週ヒューストンでフィットチェックを行ってきたのですが、ISSでの船外活動とは違い、月面では試料を拾うなどの動作をする必要があります。AxEMUではその体勢が取りやすいよう設計されているなど、従来品とのさまざまな違いを実感できました。 また、既存の宇宙服よりもサイズ調整の幅も広くなっています。AxEMUに搭載される4Gの通信機はフィンランドのノキア、またデザインはプラダが担当するなど、さまざまなコラボも実現しています。 つい1カ月ほど前には、アクシオム社は新たな契約をNASAと結び、ISSでの船外活動用の宇宙服を開発するパートナーに選定されました。その宇宙服は月面用宇宙服のアーキテクチャを活用しつつ開発しており、ISSなどの宇宙ステーションで使用できる仕様となります。 その開発によって生じる知的財産はアクシオム社が持つことになり、NASAはこの宇宙服をアクシオム社からサービス調達することになります。そのため近い将来、JAXAの宇宙飛行士もこの宇宙服を着て月面に立つことになります。 日本の宇宙戦略基金では、低軌道自律飛行型モジュールシステムも検討されています。そのため、将来的にアクシオム・ステーションが、「きぼう」の後継機となる日本モジュールと連結されることも十分にあり得ると考えています。 日本はこれまでに「きぼう」やISSを通して、有人宇宙活動におけるさまざまな技術を獲得し、人材を育ててきました。今後はその技術を継承しつつ、月探査でも重要な役割を果たすことになります。 私たちアクシオム社などが担う民間主導による地球低軌道での活動は、日本の将来的な宇宙開発に対して多いに寄与できると考えています。この九州宇宙ビジネスキャラバン2024に参加された方々に、いつかアクシオム社のアセットを活用していただけることを願っています。
鈴木喜生