宇宙飛行士の若田光一が語る「民間が拡げる」人類の宇宙活動領域
8月22日、「九州宇宙ビジネスキャラバン2024」が北九州市小倉で開催された。このシンポジウムには来場者とオンライン合わせて約750名が参加。業界内外のキーパーソンによる座談会などが行われたが、この日最後に登壇したのは若田光一氏だった。 若田氏は32年間在籍したJAXAを2024年3月に退社し、4月からは米国の民間の宇宙開発企業アクシオム・スペース社(以下、アクシオム社)に移籍している。今回の講演では「民間主導・地球低軌道ビジネスの現在地と展望」をテーマに、同社事業の進捗と展望を報告した。当記事ではそのスピーチを要約したい。 ■民間によるブレイクスルー 私はいまアクシオム社のアジア太平洋地域のCTOとして、同エリアにおけるビジネス展開や資金調達を担当しています。また、2026年の打ち上げを目指している弊社の民間宇宙ステーションや、ISS(国際宇宙ステーション)に関する事業、民間宇宙飛行の準備などに宇宙飛行士として取り組んでいます。 昨年ISSに滞在したとき、地球から昇る満月を見て、人類は月に導かれていることを実感しました。ただし、1972年のアポロ17号以降、人類は月に立っていません。その状況下においては今後、民間主導による有人宇宙活動が鍵になると考えています。 有人活動の歴史を振り返ると、およそ20年間隔で活動領域が拡大しています。1960年代にはガガーリン氏が人類初の宇宙飛行に成功し、アポロ11号が月面に着陸するなど、冷戦構造における米ソのもとで有人宇宙活動が発展しました。 1980年代になると、スペースシャトルやソ連のミール宇宙ステーションなどにより、人類は高頻度に、長期に渡って宇宙に滞在する能力を身につけました。2000年代には日本も重要な役割を果たすようになり、ISSにおける国際協力ミッションで長期宇宙滞在が実現。中国も独自の宇宙船と宇宙ステーションの運用を開始しました。 そして2020年代、それまで各国の政府主導で進められてきた有人宇宙活動が、アクシオム社などの民間企業によって活発に行われています。現在NASAの主導のもとアルテミス計画が進行していますが、そこで使用される月面探査用の宇宙服も、NASAに選定されたアクシオム社が開発しています。 このように、スタートアップを含めた異分野融合によって技術的なブレイクスルーが果たされ、その結果として有人宇宙活動の領域が、これまで以上に拡大しようとしています。 ■有人であることの強み 1996年、私はスペースシャトル「エンデバー号」に搭乗し、初めて宇宙に行きました。そのとき私は日本の実験観測衛星「SFU」とNASAの「OASTフライヤー」という、軌道上を航行する2つの人工衛星をロボットアームによって捕獲し、回収しました。現在運用されている米国のISS輸送機「シグナス」もロボットアームで捕獲されますが、当時から現在に至るまで、多くのロボットアームは手動操作によって運用されています。 しかし今後、ロボットアームは完全に自動化され、または地上から遠隔操作されるに違いありません。ただし、有人ミッションにも大きな強みがあります。