時速194キロ死亡事故で「危険運転」認定が画期的なワケ、被害者の泣き寝入りはいつまで続くのか
時速200キロ近いスピードで起こした死亡事故は危険運転か過失か――。世間一般の方に問えば結論は言うまでもないが、危険運転を認めたこの判決が画期的と感じられるのは、これまで司法がいかに社会の常識と乖離(かいり)していたかを示しているだろう。大分地裁は28日、大分市の一般道を時速194キロで運転し、衝突した乗用車の男性を死亡させたとして、自動車運転処罰法違反罪(危険運転致死)に問われた元少年(23)に懲役8年(検察側求刑・同12年)を言い渡した。(事件ジャーナリスト 戸田一法) ● 法定速度の3倍での 運転が危険運転ではない? 冒頭「社会の常識と乖離」と書いたが、この事故を巡っては当初、大分地検は危険運転致死ではなく過失致死で起訴していた。一方の弁護側は公判で「道路に沿って直進走行できていた」などとして争点を情状酌量などではなく、危険運転か過失かに据えた。そう、こちらも危険運転ではなかったと主張していたわけだ。 事故があったのは2021年2月9日午後11時ごろ。被告は法定速度の上限が時速60キロの県道交差点に時速194.1キロで進入。対向車線から右折してきた乗用車に衝突し、会社員の小柳憲さん(当時50)を死亡させた。 大分県警は同4月、危険運転致死の疑いで被告を書類送検。大分家裁も同容疑で検察官送致(逆走)したが、地検は22年7月、「危険運転と認定する証拠がない」として過失致死で起訴した。 危険運転致死は最高刑が懲役20年で裁判員裁判対象事件だが、過失致死は対象外で法定刑の上限は懲役7年にとどまる。これに遺族が納得するわけがない。「法定速度の3倍以上の超過がなぜ危険運転ではないのか」「この事故が『過失』なら命の尊厳が守れない」などとして2万8000通を超える署名を集め、罪名の変更を要請。これを受けて22年12月、危険運転致死に訴因変更された。 ● 指摘され続けてきた 危険運転の定義のあいまいさ 辛島靖崇裁判長は判決理由で「ハンドルやブレーキのわずかな操作ミスで事故が発生する危険な速度だった」と認定。さらに「法定速度の3倍以上もの常軌を逸した速度で交差点に進入した行為は危険極まりなく、身勝手かつ自己中心的で厳しい非難に値する」と厳しく指弾した。 弁護側の主張については「実際に道路を逸脱していなくても、現場は一般道で、路面の状況を考えると直線道路でも車体に大きな揺れや見落としが生じることは否定できない」として退けた。 筆者の後輩である全国紙社会部デスクによると、今回の判決で裁判長が「制御困難な高速度」とした判断は大きな意味を持つという。「これまで道路外への逸脱がなく直進できていた場合、危険運転とは認められていなかった。その点が画期的だと思う」というのが、その理由だ。