セブン銀行がAzure OpenAIで推進する、接客AIでの“ATMの顧客体験向上”
日本マイクロソフトは、米Microsoftの開発者向けカンファレンスBuild 2024の開催に続き、「Microsoft Build Japan」をオンラインで開催した。本記事では、「Microsoft Cloudで切り拓く開発者のための次世代AI」と題した基調講演の様子をお届けする。 【もっと写真を見る】
日本マイクロソフトは、2024年6月27日と28日、米Microsoftの開発者向けカンファレンスBuild 2024の開催に続き、国内向け「Microsoft Build Japan」をオンラインで開催した。 本記事では、「Microsoft Cloudで切り拓く開発者のための次世代AI」と題した基調講演の様子をお届けする。 日本マイクロソフトの代表取締役社長である津坂美樹氏は、「Build 2024には20万人以上、本イベント(Build Japan)にも8000人以上の開発者が登録している。(経済産業省の調査によれば)生成AIの経済効果は2025年までに、中小企業では11兆円、日本全体では34兆円に達する。我々はすべての製品にCopilotを搭載し、“ユーザー企業の副操縦士”として成長を支援していく」と述べ、基調講演の幕開けを飾った。 生成AIをクラウドからデバイスに広げる「Copilot+ PC」が登場 メインスピーカーを担った同社の執行役員常務 クラウド&AIソリューション事業本部長である岡嵜禎氏が紹介したのが、Build 2024にて発表された「Copilot+ PC」だ。生成AIをクラウドからデバイスに広げる、“生成AI・Copilotレディ”なPCである。 Copilot+ PCが今後備える機能として、カメラやマイクに特殊効果を適用する「Windows Studio Effects」のAIによる機能強化や、リアルタイムで音声をテキストに変換する「Live Captions」、そして、PC上で表示したものを自動キャプチャーして後から検索できる「Recall(回顧)」などがアピールされた。 岡嵜氏は、「ネットワークに接続していない環境でも、生成AIを活用したユーザー体験を加速的に得られるのがCopilot+ PC」であると強調。非ネットワーク環境でもデバイス上のデータに基づいて、「RAG(検索拡張生成)」や、さまざまなデータを数値ベクトル化する「Vector Embedding」、文章を要約する「Text Summarization」などを利用できるようになるという。 セブン銀行:Azure OpenAIでATMにおける接客AIを開発中 基調講演では、セブン銀行やNTTデータ、経済産業省などの国内事例も披露された。 セブン銀行は、AIやデータの活用を推進する「コーポレート・トランスフォーメーション部」を設けており、同部内にはデータサイエンティストや生成AIのチーム(7月1日に正式発足)の他、データプラットフォームを担うチームや、データマネジメントオフィス、データサイエンスプログラムを受け持つチームが存在する。 セブン銀行の常務執行役員 コーポレート・トランスフォーメーション部、セブン・ラボ担当である中山知章氏は、「各チームを実務とうまく連携させながらデータ活用を推進している」と語る。 例えばデータサイエンティストチームは、AIを用いてATM設置候補の検索や現金需要予測を実現し、データマネージメントオフィスチームは、社内におけるAIの利用・開発を推し進める。生成AIチームは、コンタクトセンターでの生成AI活用のPoCに取り組んでおり、「顧客との応対を要約するもので、精度の有効度は約9割、ほぼ修正不要は約6割にまで達している」と中山氏。これらの開発には、Microsoft Azureが利用されている。 興味深いのは、生成AIを活用した「ATM接客システム」である。「テキスト同士ではなく音声同士(のコミュニケーション)を展望している」と中山氏。 察するに、Speech to Textで質問を聞き取り、Azure OpenAI servicesなどで分析・応答文章を生成して、Speech Serviceでアバターが音声で返答する仕組みのようである。基調講演開催後の説明によると、半年程度のPoCを実施しており、独自のアバター開発にも着手しているという。「消費者対応に向けて、ハルシネーションの低減など多角的に取り組んでいく」と今後の展開を述べている。 NTTデータ:tsuzumi×Azureで生成AIを体験しやすい環境を NTTデータは、NTTが2023年11月に発表した独自LLM(大規模言語モデル)「tsuzumi」と、Microsoft Azureの親和性をアピールした。 同社の取締役常務執行役員 CTOである冨安寛氏は、「tsuzumiは、NTTの40年以上にわたる日本語の自然言語処理を研究を反映している。日本語の精度は世界トップクラスだと自負している」と説明。すでにNTTグループだけでも導入相談が500件以上に達しており、ユーザー企業からの問い合わせも増加しているという。 さらに、新たにAzureのMaaS(Model-as-a-Service)上でtsuzumiを提供開始し、「クイックにtsuzumiを体験できる環境を提供できる」(冨安氏)と強調。NTTデータがプライベート環境を用意する「LITRON Generative Assistant」を利用することで、ユーザー独自のソリューションをオンプレミスで展開することも可能だ。 経済産業省:日本の生成AI開発力を高める「GENIAC」をAzureで推進 経済産業省は2024年2月から、生成AIの開発力強化と社会実装を促進するプロジェクト「GENIAC(Generative AI Accelerator Challenge)」を推進している。開発基盤となったのはMicrosoft Azureだ。 Azureの採択理由として、同省 ソフトウェア・情報サービス戦略室長である渡辺琢也氏は、「学習基盤との相性が高い。(GENIACは)スタートアップ企業を対象としているため、価格面でも良い提案をいただけた。開発メンバーからは、マイクロソフトによる24時間のサポート体制が頼もしいという声が上がっている」と評している。 GENIACでは、生成AIに欠かせない計算資源調達の支援や、データ保有者との連携促進、開発者同士の交流機会などを提供する。渡辺氏は「競争力を持つAIを作るためには、データが重要。そして今、インターネット上には活用されていないデータが山ほど存在する。これらのデータの活用や(データ所有者との)連携を政府として支援したい」と述べている。 その他の国内事例としては、日産自動車による、バッテリーの性能劣化をAI予測する取り組みも披露された。AIで電圧の特異性を解明することで実現し、Microsoft Researchと共同で研究を進めてきた。 シミュレーションデータでは約80%、実データでは30%以上の精度向上を達成。劣化予測における平均誤差も0.0094まで抑制し、電気自動車やハイブリッド自動車の有用性を高める結果を示しているという。 文● 阿久津良和 編集● 福澤/TECH.ASCII.jp