運動性能と居住性と安全性 「規格」内でもがく軽自動車のジレンマ
軽自動車にはありとあらゆるタイプのクルマがラインナップされている。そしてそれら全てのクルマが、全長3395ミリメートル、全幅1475ミリメートルぴったりの寸法を持つ。先週の記事ではこうした軽自動車の特性を紹介した。はっきりしているのは、自動車メーカーの設計者にとって、軽自動車のサイズ規格は小さすぎるということだ。だからこそ全てのクルマを例外なくサイズいっぱいに作ろうとするわけだ。 【画像】先週の記事「『3395×1475』にあらゆる車種がそろう軽自動車」 しかしながら、そのサイズ、ことに全幅は現実の日本の道路環境からみてもそうそう大きくすることはできない。農道や山道、モータリゼーションの発達以前からある細い路地などを走れる生活の道具はこの国に是非とも必要で、そのためには横幅の規制は是非とも必要なのだ。 ただし、クルマである限りそれは命を乗せて走るものでもある。利便性の前に安全性が優先されるのは当然だ。今回は運動体としての理想と、規制の間にどんなギャップが横たわっているのかをみてみたい。そこにどんなジレンマがあるのかを知っておきたい人のために。
軽自動車の大型化は贅沢化か
軽自動車は法的な規格によって作られてきた。初めに規格ありきなのだ。その規格の変遷とその理由を知らないと、軽自動車を理解することは難しい。まずは規格の推移ををざっと眺めてみると以下の様になる。 ・1950年 全長3メートル 全幅1.3メートル 排気量300cc(2サイクルは200cc) ・1951年 全長3メートル 全幅1.3メートル 排気量360cc(2サイクルは240cc) ・1955年 全長3メートル 全幅1.3メートル 排気量360cc(2サイクルも同一排気量に) ・1976年 全長3.2メートル 全幅1.4メートル 排気量550cc ・1990年 全長3.3メートル 全幅1.4メートル 排気量660cc ・1998年 全長3.4メートル 全幅1.48メートル 排気量660cc
最初の大きな変化は1976年の排気量アップだ。これは過去の排ガス規制の中でもっともクリアするのが難しかった昭和51年排ガス規制をパスしつつ、動力性能を確保するための措置だ。 現在はともかく、かつてのエンジンは排気ガスをキレイにしようとすると全くパワーが出なかった。希薄燃焼と三元触媒の技術が確立する以前の性能ダウンは普通車の大排気量モデルですら「危険なほど遅い」と言われたほどで、年配の方はご記憶があるだろうが、トヨタのTTC-C(トヨタ・トータル・クリーン・システム)を搭載したクラウンや、日産のNAPS(ニッサン・アンチ・ポリューション・システム)を搭載したセドリック/グロリアなどの初期排ガス対策モデルは惨憺たる有様を露呈した。