闇に包まれた「82人の死」――混迷ミャンマー、命がけで真相を語る市民たち
情報統制をかいくぐり得られた証言と映像
「市民82人が犠牲」という現地人権団体側の情報と、「暴徒1人が死亡」という軍の発表。果たして真実はどこにあるのか。取材班は厳しい情報統制が続くなか、ネットやSNS上で発信される情報だけでは真相にたどり着けないと判断。ミャンマー国内との新たな情報回路を構築することにした。 まず、NHKのウェブサイト(現在は特設サイト「What’s Happening in Myanmar?」)上に、セキュリティーが確保された情報提供の窓口を作り情報を募った。日本からはウィン・チョウさん、マティダさん夫妻と協力。生存者・目撃者16人を捜し出すことができた。人権問題を調査する国際的なプロジェクト「ミャンマー・ウィットネス」とも情報交換を始めた。「ブラックボックス」となっていたバゴーの事件の全容が見え始めたのだ。
夫が射殺され、遺体で戻ってきた
バゴーで、真相を語り始めた市民たち。事件の夜、バリケードで見張り番に立っていた20代の男性は、若い仲間数人を亡くしたと話した。 「行方不明なのか死亡したのか山に逃げたのか、わからない人もいます。軍が持ち去って返ってきていない遺体もあります。私も、ふだん行動を共にしていた仲間が何人か亡くなりました。あの弾圧で亡くなった人は100人では収まらないと思います」 別の男性はいとこが撃たれて拘束され、遺体となって戻ってきたと明かした。遺体を軍が家族に送り返す際に金銭を要求している、という証言も複数得られた。 ウィン・チョウさんとマティダさんのもとには、夫を殺害されたという女性から連絡が入った。軍の監視下にあるバゴーでは、密告者がいることから周囲の人にも事件のことは話すことができない、という。 「あの日、正午ごろに、夫の友達が息をゼイゼイいわせてやってきました。夫のヘルメットを抱えていたのでけがをしたのかと思い、『治療しないと! 早く連れてきて』と伝えました。ところが連れてこられた夫は、すでに命がなかったんです。友達は夫の死を隠すしかなかったんですね。友達は私に『泣くな! 泣くな! 泣いたら軍に嗅ぎつけられる』と言うので、急いで夫の遺体を家の中に入れて隠しました」