<非鉄金属業界団体トップインタビュー/日本鉱業協会・関口明会長(DOWAホールディングス社長)>「資源の安定確保へ、支援策強化を」
――2024年の振り返りと25年の展望を。 「24年は会員各社の業績も含め総じて悪い年ではなかったと思う。地金の実需はそれほど強くなかったが、業績面では円安がプラスに働いた。需要面では自動車生産が停滞した影響を引きずっているが、今後の回復を期待したい」 「25年は銅も亜鉛も原料の買鉱条件が悪化する見込みのため、ある意味では試練の年になると思う。自山鉱を有する会社は鉱山と製錬でその影響を一定程度相殺できる面もあるが、各社とも供給責任を果たしていくために副産収入の拡大や、あらゆる面でのコスト削減、場合によってはプレミアムの引き上げなど、さまざまな手段を講じていくのではないか。もう一つは米国でトランプ政権が内向きの政策を進めるとすれば米国景気は良くなり、ドルが強くなる可能性が高い。ドル高になるとドル建ての商品価格は下落する傾向があるため、為替は円安に、非鉄価格はドルベースで下がりやすい環境になる。一方で米中関係の悪化が進めば経済のブロック化が進み、地域によって生産活動への変化があるだろうが、それが実需や世界全体の需給バランスにどう影響するかは予測が難しい。実需では自動車生産の回復を見込むが、銅の最大用途である建設関連は中国の不動産不況の回復時期がまだ見通せない」 ――資源獲得競争の激化や資源ナショナリズムの高まりなどがある中、政府に資源確保への支援策強化を求めています。 「昨年には資源エネルギー庁にあった鉱物資源課が製造産業局鉱物課に再編され、川下産業のニーズもくみ取りながら資源政策が進められる体制となった。天然資源だけでなく、リサイクルも含め供給側、需要側を一体的に俯瞰し、さまざまな政策がより合理的に進められる土台ができたと考えており、歓迎したい。資源開発への支援では鉱促懇を通じて長期的かつ継続的な資源開発に不可欠な鉱業税制の維持と資源外交の強化を要望している。世界のブロック化が進む気配がある中、価値観を共有できる同志国との連携を強化し、日本としても技術協力などを通じて相手国と互恵的な関係を構築していく資源外交を展開してほしい。また、近年の鉱山開発費用の増大化も含め資源開発のリスクが増す環境にある中、そのリスク低減を図るためにJOGMECを通じたリスクマネー支援の拡充もお願いしたい。これは政府系機関であるJOGMECからの財政的な裏付けがあるということで海外パートナーに対し、日本企業の信用力が高まるという効果もある。また、大学での資源系講座の減少で不足する資源系人材の育成に対する支援も期待したい」 ――国内製錬所はベースメタルや重要鉱物の安定供給、リサイクルで機能している。その維持・発展のために課題となっていることは。 「非鉄価格は国際相場を基準に決まるわけだが、国際標準よりも割高な電力代を要因に非鉄精製コストが悪化し、国際的に競争劣位の状態を生んでいる。製錬所の国際競争力を維持・強化するためにも低廉な電力供給をお願いしたい。低廉な電力供給を実現するには、例えば大規模発電で全国をカバーする供給モデルから、小規模な電力の供給は再エネにシフトして地域分散型とし、安全な原発は再稼働させる。そうして化石燃料の輸入量を減らし、国富の流出を抑えた上で国際競争力のある産業用電力とするというような電力供給の構造転換が必要ではないか。これは大規模送電網の維持コスト低減や災害時の電力復旧の迅速化にも寄与するはずだ」 「国内の製錬ネットワークは世界的にも稀有で効果的なネットワークだ。資本関係にない会社同士が連携し、各々の得意分野を生かして効率的にレアメタルやマイナーメタルを回収できている。それぞれの製錬所が特徴を持って運営されており、これを維持することは経済安全保障上でも重要なポイントになる。製錬所の競争力維持・強化に向けては産学連携も含めた製錬技術の開発、脱炭素に向けた設備投資も進めていく必要がある」 脱炭素への貢献アピール ――製錬所は今後も循環型社会の構築で重要な役割を担う。 「国内に存在する二次資源だけでは限りもあるため、東南アジア圏を中心に国際的な資源循環の促進に関するルール作りのような取り組みを日本政府が先頭に立って進めてもらいたい。これも日本の優れたリサイクル技術による効率的な資源回収や相手国の廃棄物埋立の抑制による環境負荷の低減など、双方でメリットをシェアするような仕組みが重要で、将来に向けて環境リサイクルビジネスの基盤を協力して構築しようというアプローチが良いのではないかと考える。加えて、貴重な国内の二次資源が不当な形で海外に流出するのを防ぐ必要がある。不正ヤードの問題も含め、現実的に機能するルールをスピード感を持って作ってもらいたい。これは製錬業者だけでなく、静脈産業のプレーヤーの意見も取り入れ、一刻も早く適正な資源循環が国内で行われる環境を整えてもらいたい。それが国内の資源循環を高度化させていくための足掛かりになるのではないかと思う」 ――非鉄金属はカーボンニュートラル(CN)の流れの中で需要が拡大する見込みです。 「CNに向けて車の電動化や再エネの拡大で導電・蓄電などが必要になるとさまざまな非鉄素材が必要になる。電化には銅、導電材では銀や銅、蓄電池ではニッケル、コバルト、リチウム、あるいは鉛も成熟した技術ではあるが、それだけに安定性のある蓄電池が作れる。また、鉄鋼製品の長寿命化に役立つ亜鉛も間接的にはCNに貢献する素材であり、ある意味ではこれら全てがCN社会に不可欠な素材と言い切れる。加えて、ベースメタルはレアメタルやマイナーメタルを効率的に回収するためのキャリアとしての機能もある。そういう意味ではベースメタルは高度な素材、製品を生み出すためにも必須の元素であり、これが無ければ重要鉱物の確保もおぼつかなくなる。ベースメタルの製錬所はそういった技術の核で、今後のCN社会においても必須の社会インフラになるという自負を各社が持っていると思う」 ――業界のCN取り組みの進ちょくは。 「基本的に脱炭素の取り組み自体は個社単位となるが、協会としては例えば各社の取り組みをうまく取りまとめて対外的にアピールする材料を作るといったような取り組みができればと思う。ライフサイクルアセスメントのようなものも業界共通の基準を作るのは難しいが、参考になる指標や事例のようなものはあっても良いかもしれない」 ――排出権取引の議論が始まる中、製品の高機能化やリサイクルなど直接、間接も含め脱炭素に貢献する非鉄をアピールする必要があるのではないですか。 「それは必要なことだし、一層強化する必要があると思う。特に当業界でも資源循環に注力する企業が増えているが、再生材を作る際のエネルギー消費量やCO2排出量についての議論を深めてほしい。脱炭素に再生材が有効で必要なものだという認識は広く周知されているが、リサイクルのために二次原料を増処理し、再生材を増産する企業はエネルギー消費量が増え、CO2排出量が増える。これを再生材の生産者だけに背負わされないよう主張していきたい。ここはLCAのような考え方に基づき社会で公平に負担する、あるいは炭素税見合いの分は価格に吸収させて一定程度は消費者にも負担してもらうような仕組みや社会的認知の広がりが必要ではないかと考える。そうならなければ再生材を増やすインセンティブは働かないし、持続的な事業とはならない」 ――産学連携、人材育成の取り組みは。 「当業界は、会員各社が個社単位で大学に寄付講座を開設するなど、他業界と比べても大学との連携に非常に力を入れている。協会としても産学連携が進んでいる業界だと対外発信し、もっとアピールしても良いと考える。また、子どもたちに金属や工学に興味を持ってもらうための仕掛けは個社単位での取り組みに加え、業界でも科学技術館での常設展示や出前講座などを実施しているが、機会があれば積極的に取り組んでいけば良いと思う。こうした取り組みは地道な活動と業界をうまくPRしていくことの両輪が必要だと思う。多様性の観点では昨年にDE&Iで新しい取り組みを実施したが、これは今年も継続して行う予定だ。女性が生産現場も含むさまざまな場所で力を発揮できる環境を整備するというのは各社にとっても重要なテーマだと考える」(相楽 孝一)