京都で制作を続けた木漆工芸の巨人・黒田辰秋を知る絶好の機会
■ 一貫して「美しい線」を追い求めた黒田
第2部では、展覧会の副題にもある「木」「漆」「螺鈿」に加えて「民藝」の4つをテーマとして、それぞれの作品をまとめて紹介。黒田辰秋といえば、木工作品という印象が強いけれど、漆工芸や螺鈿も本人の中では等しい扱いだったことを解き明かすとともに、各テーマごとの作品の見方まで教えられる。 展示室内で解説されていたことを思いっきり簡潔にまとめると、黒田の木工は木材そのものの特性、美質を最大限に引き出したものであり、黒田に特徴的な朱漆を使った漆工芸は、膨らみや曲線、彫りといった造形の美をあらわにするためのもの。そして、螺鈿は貝という特殊な素材のひとつひとつを組み合わせてそれでしかない質感、個性を生み出したものとされる。 そして、家具のような大作でも茶器のような小品でも、黒田は一貫して「美しい線」を追い求めていたという。 この「美しい線」というキーワードの下、各展示作品を眺め直してみれば、冒頭に書いた、引き締まった緊張感の理由も少しはわかった気がする。無駄のない選びぬかれた造形、その奥に確かにある木材そのものの美しさと強さ。それらを統合する黒田辰秋の作家性・・・。 「作品が存在する限り、それを作った責任を追いつづけなければいけない」「この作品ひとつが、地球と代えられるか」と常に自身に問うていたという黒田辰秋。その作品をまとめて見直すことは、鑑賞者それぞれにもきっと得るものがあるはず。 会期は来年3月2日まで。月曜日と年末年始休館、観覧料は一般1200円、大学生500円。図録は黒田の作品から宝結紋だけを抽出して表紙にあしらった上製本で、展覧会の内容に拮抗するような佇まいのよさ。デザインは上田英司(シルシ)、3000円。 取材・文・写真(一部提供)/竹内厚