<ボクシング>田口と河野のW世界戦の勝敗を分けた“目に見えぬ戦い”
プロボクシングのダブル世界戦が31日、大田区総合体育館で行われWBA世界Sフライ級王者の河野公平(35)が同級暫定王者のルイス・コンセプシオン(30、パナマ)に0-3の判定で敗れて王座を失い、WBA世界Lフライ級王者の田口良一(29、いずれもワタナベ)は同級1位の宮崎亮(28、井岡)に3-0で判定勝利して4度目の防衛に成功した。2人の王者の明暗を分けたのは作戦の成否という“目に見えぬ戦い”だった。 判定を待つ間、パナマから来た挑戦者は、まるでプロレスラーのようにコーナーポストの最上段にかけ上げるとトンボを切った。それも青コーナーから始まって二つのニュートラルコーナーにも駆け上がって計3度。 「勝利の確信があった。それに過去パナマから来たボクサーは日本で勝ったという試合に不利な判定をもらったことがある。そういう心配があったのでアピールしたのさ」 一方の河野は「判定なら負けるな」と思ったという。 ジャッジ2人が116-112、1人が115-113の3-0判定。アメリカの地で亀田興毅に完勝して引退の引導を渡した男は、4度目の防衛戦に完敗した。やられたらやり返すーー格闘技の本質を思い出させるような河野らしい粘り強いファイトで終盤は盛り返して、会場には「公平コール」が鳴り止まなかったが、3者のジャッジが揃って「9-10」とつけたスタートからの3ラウンドが最後まで尾を引いた。 完全な作戦ミスだった。 「コンセプシオンは前半はパンチが強い。最初は足を使い、決して打ち合うな。後半に行け!という作戦だった」。河野は、1ラウンドからガードを固めて、足を使ってサークリングを試みる。だが、手を出さずに下がるだけだからコンセプシオンに面白いように打たせただけだった。河野の恐怖心を見透かしたように、一発、一発、ねじりこむようなブロー。右のフックでよろけて、右のストレートにロープに飛ぶ。この3ラウンドで3ポイントを失っただけではない。試合の流れも、ペースも、リズムも、何より心理面での優位差まで“目には見えぬ戦い”のすべてを挑戦者に持っていかれたのである。 ボクシングは、殴り合いと同時に繊細なペースという名の陣地取りゲームである。実力差が拮抗すればするほど、序盤をどちらが制するかが、重要なポイントになる。スタミナがあり、消耗戦がいくら得意の河野といえど、みすみす相手にプレゼントするようなラウンドを作ってしまっては勝ち目はない。 コンセプシオンも、すでに30歳。全盛期は過ぎていた。アラが多いボクサーである。打ちにいく際、明らかにガードが下がる。「そこにカウンターをあわせる」という河野の思惑ははまったが、序盤の印象がジャッジに残っているから、ラウンドの前半に派手なアッパーを打たれると、そのラウンドはほとんどコンセプシオンが支持されることになった。 「河野の左右のボディは効いた」と、コンセプシオンが何度かクリンチで逃げる場面もあったが、その挑戦者の戦闘意欲を奪いとるまでは至らなかった。 逆に最後の最後まで強打を浴びせられた河野は、「最後までパンチが生きていた。アッパーは効いたし、途中は倒されるかなと思った。でも出し尽くしたと思う」と、達観したコメントを残した。 35歳。負ければ引退の十字架を背負いながらリングに立ち続けてきた前チャンピオンは、試合後、その進退について聞かれ「今後は休んでゆっくりと考えたい」と答えた。 メーンイベントの日本人対決は河野ーコンセプシオン戦を逆さまにしたような作戦が勝敗を分けた。