<ボクシング>田口と河野のW世界戦の勝敗を分けた“目に見えぬ戦い”
控え室で河野の敗戦を知った田口は少なからず動揺した。 「やべえなと思った。気落ちしてしまった。僕が負けたらジムにベルトがなくなる」 専属トレーナーに励まされリングに上がった田口は、慎重に作戦を遂行した。 「ジャブにカウンターをあわせてくると思った。だからジャブに必ずフェンスをいれた。結果、カウンターは合わされなかったし、相手のジャブも外せた。スピードは相手の方が上だと思っていたんだけど、想像以上に序盤にこっちがペースをつかめた」 10センチ以上あるリーチ差のアドバンテージを存分に使う。しっかりと距離をとり、素早いステップワークで宮崎を圏内に入れさせなかった。序盤、宮崎は、田口のボクシングにつき合わされ、ほぼ何もできなかった。 インサイドに入れないのならば、何か手を使い、相手を逆に誘うのが基本。宮崎がベルトをつかむにはボクシングではなく、泥臭い殴り合いに持ち込むしかなかった。それには身を切るリスクを負う勇気が必要だが、宮崎が、ようやくゴチャゴチャした圏内に誘いこみ、ボディ攻撃から突破口を開きにかかったのは、もう終盤に入ってから。本来ならば2ラウンドを終えた時点で、なんらかの作戦変更を試みるべきだったが、時すでに遅し。 逆に田口にガードを下げられ誘われる始末だった。 「気持ちでは負けていないということをアピールしたかった。最後まで集中できた」が、田口の試合後談。 ジャッジの一人は、119-109とほぼフルマークを田口につけていた。 3-0の圧勝。プロボクシングがエンタテイメントスポーツであることを考えると、見せ場を作れなかった田口の勝ち方に不満は残るが、「KOを狙いたかったが、勝ちに徹した」という田口の気持ちもわからないでもない。大晦日の再起が内定している前WBA世界スーパーフェザー級王者の内山高志は、「重圧があっただろうが冷静に戦った。大きく成長したし、顔つきから変わっていた。堂々としていた。おれも世界戦のリングに立ちたいと思った」と“愛弟子”田口の成長ぶりを絶賛した。 試合前には、タイトル戦を盛り上げるために過激な舌戦を仕掛けていた“ナニワの番長””宮崎は、リング上で田口に「すみませんでした」と、ここまでの非礼を謝罪した。控え室に帰ると悔し涙が止まらなかった。 「俺が弱かった。それだけ。実力が出せなかったのは弱かったということ。すべて自分のせい」 田口の罠にはまり不完全燃焼に終わった宮崎は潔かった。 田口は、“目に見えぬ戦い”を支配し、河野は、“目に見えぬ戦い”に敗れた。ボクシングの裏にある奥深いもうひとつの戦いが、2人の勝者と敗者を作った。 最後に。 新王者、コンセプシオンにWBO世界同級王者、井上尚弥(大橋)についてのコメントを求めると、「そんな選手は知らない。やりたいならやるけれど。金次第」と嘯き、11日に行われるローマン・ゴンザレスvsカルロス・クアドラスのWBC世界Sフライ級王座戦の「勝者と試合をしたい」と語った。 一方、田口の次期挑戦者には、7日に日本ライトフライ級王座と東洋太平洋同級王座を統一したばかりの拳四郎(24、BMB)が対戦を熱望、この日も来場して田口のV4戦に目を光らせていた。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)