熊本「交通系ICカード廃止」はむしろ良かった? “大危機”から垣間見える「地方の選択肢」と、都心で広がる可能性とは
地方都市のDX化に高い壁
これらのプロジェクトを見てみると、 ・交通系ICカードの豊かな可能性 ・クレカタッチ決済の限界 が同時に浮かび上がる。現在、非接触型クレジットカードが目指しているのは、あくまで「決済と乗車」のみだ。一方、交通系ICカードはその枠を超えて、次世代の都市づくりを計画している。 ただし、Suicaが示そうとしている形は、地方都市にとってはかなり負担が大きいのではないかという疑問も出てくる。“熊本ショック”が示すように、地方の交通事業者はシステム更新の費用に苦しんでいる。地方都市が最優先すべきは 「公共交通の維持」 であり、さらにその先にある 「交通系ICカードを活用した都市のDX化」 などは、現実的には考えられないだろう。また、外国人観光客を誘致したい地域にとっては、クレカタッチ決済は便利な選択肢だ。交通系ICカードは外国人には手に入りにくいため、普段使いのクレジットカードのほうが使いやすいと感じるのは自然なことだ。 交通系ICカードと非接触型クレカには、それぞれに明確な長所と短所がある。
決済手段の共存
だからこそ、このふたつは今後も共存できるのではないか。 東京23区をはじめとする大都市では交通系ICカードを活用したまちづくりが進み、地方都市ではクレカタッチ決済による公共交通のキャッシュレス化が進んでいる。各自治体や交通事業者が、 「それぞれの状況に合わせた方法」 を選べる時代が到来したと考えるべきだろう。 今ではキャッシュレス決済の選択肢はひとつではなく、地域や背景に応じた多様な選択肢が存在している。場合によっては、複数の手段を組み合わせて利用することも可能だ。 このような「キャッシュレス決済導入の柔軟性」が、2024年も半ばを過ぎた今、ようやく確立されたといえる。
澤田真一(ライター)