熊本「交通系ICカード廃止」はむしろ良かった? “大危機”から垣間見える「地方の選択肢」と、都心で広がる可能性とは
Suicaのビッグデータ活用
まずはJR東日本の中長期ビジネス成長戦略「Beyond the Border」について解説する。この戦略は、今後10年間における環境変化を見据えたプロジェクトで、主に ・移動の目的(地)づくり ・DXによる個客接点の強化 を目指している。DXとはデジタルトランスフォーメーションで、デジタル技術を活用してビジネスや社会、組織、文化を革新するプロセスだ。具体的には、業務の効率化や新たな価値の創造、組織文化の変革などが含まれる。 例えば、Suicaから得られるビッグデータを活用し、デジタルプラットホームから利用者の目的や行動に応じた情報が送られる仕組みを構築する。その結果、改札機でSuicaを認識した瞬間にアプリを通じてデジタルクーポンなどが受け取れるようになる。利用者にとっては、「これから知りたい情報や受け取りたいクーポンが事前に届く」形となる。これは、Suicaをはじめとした交通系ICカードが 「単なる決済手段ではない」 ことを示している。特に、交通系ICカードにはクレジットカードにはない「定期券機能」がある。これにより、例えば「西東京エリアから都心まで通勤・通学している人がどれだけいるか」といった情報がビッグデータとして蓄積される。この点だけでも、交通系ICカードはクレジットカードを圧倒する「情報デバイス」であるといえる。 また、Suicaをクラウド化することで、蓄積されたビッグデータをさまざまな分野で活用していくのが、まさに「Beyond the Border」のコンセプトである。
「広域品川圏」のまちづくり
もうひとつ、OIMACHI TRACKSについても説明しよう。 JR東日本は、浜松町駅から大井町駅までのエリアを「広域品川圏」と定義し、この地域に ・都市生活共創拠点 ・国際交流・共創拠点 ・文化・観光共創拠点 を設けるプロジェクトを進めている。OIMACHI TRACKSはその一部で、大井町駅周辺を都市生活共創拠点として開発している。 OIMACHI TRACKSの中心となる施設であるBUSINESS TOWERとHOTEL&RESIDENCE TOWERは、現在建設中だ。ここには、ホテル、オフィス、サービスレジデンス、医療機関などが入居する予定だ。さらに、災害時には約3000人の帰宅困難者を受け入れるためのスペースが用意され、この3000人が72時間過ごせるだけの備蓄も整えられる。 そして、OIMACHI TRACKSの各施設の建設にも、Suicaのビッグデータが活用される予定だ。