考察『光る君へ』36話 運命の皇子誕生!『紫式部日記』にも記された貴族たちの無礼講「五十日儀」で、ついに赤染衛門(凰稀かなめ)に気づかれた?「左大臣様とあなたは、どういうお仲なの」
居貞親王と敦明王
「中宮様が御生みになるのが皇子であったら」 これを考えるのは、当然一条帝だけではない。めでたいという斉信(金田哲)、皇子であったらややこしいことになると指摘する公任(町田啓太)、現東宮・居貞親王(木村達成)のあとは一条帝の第一皇子・敦康親王が東宮になるのが道理であるからややこしいことはない、道長がそれをひっくり返すはずはないと断言する行成(渡辺大知)。 それには答えない道長……帝の譲位の話をするのは不敬であることを示唆するが、本当にそれだけか……? 道綱(上地雄輔)が東宮・居貞親王に、花山院(本郷奏多)逝去を報告する。 花山院……東宮時代に漢籍教室の先生である為時(岸谷五朗)に蹴りをくらわす場面から始まり、足指で扇を操りながらの猥談、厳かな表情での緊縛プレイに忯子(井上咲楽)熱愛、寛和の変で騙し討ちされ長徳の変では弓矢で脅され……。色々ありましたね。鮮烈で自由で純粋。序盤から中盤までの、忘れられないキャラクターでした。お疲れ様でした。 花山院の弟である現東宮・居貞親王は、彰子が産む御子が皇子ならば、そして「我が子敦明が次の東宮にならねば、冷泉帝の皇統は途絶える」と憂慮する。ここまでの帝位は、 冷泉帝→円融帝(坂東巳之助/冷泉帝の弟)→花山帝(冷泉帝の皇子)→一条帝(円融帝の皇子)→東宮・居貞親王(冷泉帝の皇子・花山帝の弟)→? という流れとなっている。居貞親王が帝となったら、そのあとの東宮は一条帝の皇子・敦康親王か、それとも彰子の産む皇子か。 現東宮・居貞親王は一条帝よりも4歳年上。母親は兼家(段田安則)の娘、一条帝の母・詮子(吉田羊)の同母姉であったので、一条帝が即位したときに兼家の後押しで東宮となった。しかしその後、祖父である兼家は死去、東宮妃・娍子(すけこ/朝倉あき)の父、大納言・藤原済時も長徳年間に大流行した疫病で亡くなってしまったので、現東宮である彼には強力な後ろ盾がない。なので、自分には息子がいるが、その子が東宮となる可能性は限りなく低い……「冷泉の皇統が絶える」とは、そういった意味の台詞だ。 そこに居貞親王の息子、敦明王(あつあきらのう※この時点ではまだ親王宣下を受けていないので『王』/阿佐辰美)登場。狩り好きで、手にした弓を道綱の肩に当てたり、所作にどこか荒々しさが垣間見える。そう、これぞ敦明王。 狩り好きをとがめる母親の娍子の言葉に、 敦明王「私は力が有り余っているのでございます。人にぶつけるより獣にぶつけるほうがマシでございましょう」 このドラマでどこまで描かれるかわからないが、たびたび暴力事件を起こして当時の貴族社会に波紋を呼んだ人物である。権力の壁の外側に置かれている、居貞親王と敦明王父子のこれからに注目したい。 敦康親王が不安を口にする。 敦康「中宮様に御子が生まれたら、もう遊べなくなるのでしょう? 私は中宮様の子ではありません。御子が生まれたら、その子のほうが愛おしくなるのは道理です」 彰子「親王様と私はここで一緒に生きてまいりました」「子が生まれても親王様の心を裏切るようなことはけっしてございませぬ」 彰子の言葉通り、ふたりは敦康親王がまだよちよち歩きの頃から、彰子が寂しい中宮であった頃から、藤壺で身を寄せ合うように生きてきた。彰子の言葉を聞いて安心するでもなく、少し寂し気に微笑む敦康親王の賢さが切ない。 「中宮様のお生みになるのが皇子であったら」 この一点を中心として、内裏の全ての人間がさまざまな思いを抱く──。
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