100mハードラー田中佑美がオリンピックを振り返る「『怖い』よりも『楽しい』。パリは『自分の大会』だった」
【1台目にビビらないで、速く動こう】 ── 39番目で出られることになり、オリンピックに向けてどんな目標を設定しましたか? 「それはシーズンが始まる前から、あまりブレていません。出たこともない大会ですし、条件によってタイムにはブレもありますから、『何秒を出す』とか『何着に入る』とかではなく、『後悔がないように走りたい』っていうのが最初に立てた目標でした。 同時に、ちょっと怖くもありました。ギリギリのところでオリンピックを掴んで、話題性もあって応援をしてもらっていたので、『失敗しちゃったら、どうしよう』と思いましたし、下から2番目だから『自分は足が遅い』などと考えることもありました」 ── 下から2番目だからこそ、「怖いものがない」「失うものはない」という心境だったのかなと勝手に想像していました。 「最後はそこに落ち着くんですけど、そこに至るまでには、自分のなかでいろんな感情が渦巻いていました」 ── オリンピックの舞台でスタートラインに立った時に、笑顔を見せたことも日本では話題になっていました。リラックスしているようにも見えましたが、やはり緊張はありました? 「そうですね。でも、会場に入ってしまったあとは、自分のなかで振りきれていたので、『怖い』という感情よりも『楽しい』という感情のほうが勝っていました」 ── 今回は、12秒90、12秒89、12秒91と、3レースとも好記録を揃えました。 「気持ちって1個だけじゃないじゃないですか。いろんな気持ちが入り混じっているなかで、もうちょっと記録が出ればよかったなっていう気持ちもありました。絶好のコンディションではあったので、自己ベストぐらい更新したかったな、と正直思いました」 ── 日本選手権の決勝では、スタートから勢いよく飛び出すレースを試したと話をされていました。それはオリンピックでも継続して試されたのでしょうか。 「そうですね。爆発力がないという点が、自分のよくないところだと思っていましたから。スタートでぬるっと出て、ぬるっと走って、ぬるっとゴールするので、『しっかり突っ込もう』『1台目にビビらないで、音が鳴ったら速く動こう』っていうのを、日本選手権からオリンピックを通して意識していました。 試したというよりも、吹っきれたみたいな感じですかね。そうするべきだとわかっていても、特に大事な場面ではなかなかできなかった。そういう意味で、チャレンジとして、吹っきったスタートをしました」