レスボス島で祖国と家族を思う シリア難民、欧州へ命がけの旅路
シリアなど中東からヨーロッパに押し寄せる難民たち。彼らは祖国を離れ、命がけで新天地に向かう。シリアでは4年にも及ぶ内戦と、過激派組織「イスラム国(IS)」の台頭によって国土が荒廃しつつある。フォトグラファーの鈴木雄介氏が、ギリシャのレスボス島からヨーロッパを目指す彼らの姿を追った。 【写真】ロシア参戦で難民はさらに増える シリアは「地獄」化の恐れ
■ 2015年8月中旬、僕はギリシャのレスボスという島の海岸に立っていた。朝焼けが、まだ夜の暗闇が残る夏のエーゲ海の穏やかな水面を美しく輝かせ、新しい一日の始まりを告げる。しかし、カメラを通した僕の右目には全くかけ離れた光景が見えていた。最初は海の上に浮かぶただの小さな黒い点に見えていたその物体は、徐々に近づいてくるにつれてその異様さを表し出した。 時々コントロールを失って左右に蛇行するのは小さなゴムボートだ。青やオレンジ色の鮮やかなライフジャケットを着た人間が無数に乗っている。だんだんとそれが陸に近づき、肉眼で彼らの不安に満ちた表情が見える。多くが戦争で行き場を失ったシリア人だ。同じ様に戦争で国が荒廃したアフガニスタン、イラクの人々もいる。
ボートが海岸に近づくと一斉に人が飛び降り出した。生後間もない赤ちゃんを体にくくり付けた母親や家族連れ、息子に肩を支えられてやっと歩けるお年寄り。皆の持ち物はバックパック一つだけだ。岸にたどり着くと、泣き出す子供達や女性、抱き合って喜びあう若者や神に感謝してお祈りを捧げる男性もいる。
■ 顔を上げれば、水平線にトルコの陸地が見える。ここから向こう岸まではたった10キロほどしかない。波が穏やかな夏の間に、難民たちは海を渡ってくる。トルコ側で、武装したマフィアの様な密航業者に14~25万円ほどの金を渡しボートに乗る権利を得る。窓のないバンに呼吸ができないほどぎゅうぎゅうに押し込まれ、彼らはまずレスボス島に近いトルコ側の沿岸部 に到着する。そして海岸沿いの森に、時には一週間近く潜んで自分の番が来るのを待たなければいけないという。 話を聞いた難民によると、常に森の中には数百人から千人を超える人々が潜んでいるという。持参した水や食料が無くなれば飢えるしかなく、密航業者に逆らえば撃ち殺される。業者はトルコの警察に賄賂を渡しているので、見つかったとしても捕まる事はない。森の中で息を潜めやっとの事でボートに乗り込むが、 定員20名ほどの小さなゴムボートに、時には65人以上が文字通りすし詰めになり、半分沈んだような状態でなんとかギリシャ側にたどり着く。途中で燃料切れになり、男たちが海に入ってボートを押したり、10キロの道のりをたどり着けず難民とともに海の底に沈んでしまうボートも少なくない。