レスボス島で祖国と家族を思う シリア難民、欧州へ命がけの旅路
止められたはずの戦争
それにしても難民達の姿を見るとなんともやるせない。僕は過去にアフガニスタンを3度旅した。その自然の雄大さや人々の温かさに感動し、80年代に大国のパワーゲームに巻き込まれ、戦争で荒廃した国土の様子にショックを受けて写真家を志した。 そして2013年、自由シリア軍に同行してシリアの戦争を取材した時、同じ様に困難な状況の中に暮らしながらも人への優しさを忘れないシリア人に強く心を打たれた。当時、シリアの人々にはまだ希望があった。アサド政権を倒し、自由を勝ち取るんだという気概があった。しかし、今はどうだろう。血で血を洗う地獄絵図。各国の思惑が複雑に絡み合い、それぞれが自分たちに利益をもたらしそうなグループに武器、弾薬、資金、トレーニングを提供して、殺し合いは終わりが見えない。昔のアフガニスタンと同じ状況を彷彿とさせる。もはや自由と民主化を求めるシリアの人々の想いなどは遥か彼方に忘れ去られてしまった。 シリアの戦争は、過去に国際社会が介入して止めるチャンスが幾度かあった。しかし、それがなされる事は決してなく、国際社会からシリアの状況は無視され続け、23万人以上が殺された。流れた血が鮮やかに大地に広がるかのように、やがて戦争の影響はジワジワと周辺国へと広がり、ついには大量の難民がヨーロッパに到達するまでになった。 シリアやアフガニスタン、イラクでの戦争が続く限り、難民は溢れ続けるだろう。難民問題をどうするかではなく、その根源にある問題をどう解決するのか。傍観を続けた結果、行き着くところまで行ってしまって、ついに世界が行動を迫られる時が来たように思う。
■鈴木雄介(すずき・ゆううすけ) フォトグラファー。1984年千葉県生まれ。音楽学校在学中に好奇心からアフガニスタンを訪れ、そこで出会ったジャーナリスト達に影響を受けて写真を始める。2010年に渡 米し、ボストンの写真学校在学中より受賞多数、卒業後はニューヨークを拠点にフリーランスとして活動中。伝えられるべきストーリーや出来事の中に潜む人々 の感情を、写真という動かないメディアに焼き付け、人に伝えるのを目標としている