職場にいる「悪意なく怒らせる人」「空気が読めない人」は発達障害なのか?
職場で「空気が読めない」「ルーティンに固執する」など、一見すると問題行動に見える特徴を持つ人がいるかもしれませんが、それは発達障害の特性かもしれません。定型発達と発達障害、その境界線は曖昧であり、環境によっても変化します。「発達障害ではないか」と疑いを抱きつつも、はっきりと診断がつかないグレーゾーンに苦しむ人々。発達障害と個性の違いとは何なのか、その曖昧な線引きが職場に与える影響について、『発達障害グレーゾーンの部下たち』を上梓した舟木彩乃氏が解説します。
※本記事は『発達障害グレーゾーンの部下たち』を再構成したものです。
発達障害とは何か
みなさんの部下や同僚に、次のような項目に当てはまる人はいないでしょうか。 ・場の空気や雰囲気を読むことが苦手 表情や声の抑揚が乏しい ルーティンを乱されると不快感を表す 悪意はなさそうなのに、よく人を怒らせている 音にストレスを感じやすい これらは「発達障害」に見られる特徴の一部です。発達障害は、脳のさまざまな機能の発達に関する障害のことを指し、先天的(生まれつき)なものとされています。 カウンセラーである筆者は、このような特徴によって職業生活が妨げられているようなケースの相談を受け、「部下は(自分は)発達障害の可能性があるのではないでしょうか?」と聞かれることがあります。近年、「発達障害」という言葉が広がってきたからだと思いますが、実は発達障害という単一の疾患があるわけではありません。 発達障害とは、「自閉症スペクトラム障害:ASD(Autism Spectrum Disorder)」(以降、自閉スペクトラム症またはASD)や「注意欠如/多動性障害:ADHD(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder)」(以降、注意欠如・多動症またはADHD)などの障害の総称です。前述の特徴も、ASDとADHDに見られるそれぞれの特徴を挙げたものです。 職場の発達障害に関する相談で圧倒的に多いのがこの2種類であることから、ここではASDとADHDを対象として「発達障害」という表現を使います。 ところで、程度の差こそあれ、冒頭の項目のどれかに自分も当てはまるという人が多いのではないでしょうか。発達障害がどの面で現れるかには、個人差があります。脳は、エリアによって役割が異なるため、抜群の記憶力を持っていても会話が苦手だという人もいれば、面白いアイディアをたくさん出せるけれどルーティンワークは苦手だという人もいます。