日本でも広がる「森のラストベルト」日本とアメリカで起こる怨恨の実態、もう一つの分断
米国の大統領選挙を報じるニュースで、再びラストベルト(さびついた工業地帯)が話題に上っている。共和党副大統領候補に指名されたJ・D・バンス上院議員の育ったオハイオ州は、ラストベルトの一角だからだ。そして大統領選挙の勝敗を左右するのが、ラストベルト諸州の動向ということもある。 【写真】「赤い金塊」を次々と伐採していったかつての開拓者たち オハイオ州を含む米国中西部は、かつて自動車や製鉄など重厚長大な製造業地帯だった。しかし安価な労働力を求めてメキシコなどへ工場の移転が進み、失業者が溢れた。 長く製造業に従事していた労働者は金融やIT産業といった新産業への転職もままならず、酒や薬物に溺れ、貧困のループから抜け出せなくなる。地域の治安も悪化した。そうしたルサンチマン(怨恨)が、米国社会の分断を生み出したのだろう。
もう一つのラストベルト
このようなラストベルトが、北米西海岸にも広がっている。主にカリフォルニア州北部からオレゴン州、ワシントン州、そしてカナダのブリティッシュ・コロンビア州にかけての森林地帯だ。従来の林業や木材産業の衰退で、「森のラストベルト」と化している。 北米大陸に入植したヨーロッパ人は、広大な森を伐り開きながら白人の国を建設していった。その伐採の波は、19世紀には西海岸に達し、そこで「赤い金塊」と呼ばれるレッドウッド(セコイア)の森に出会う。直径10メートルを超えるレッドウッドを伐れば莫大な富が得られた。 この〝ゴールドラッシュ〟は、大木を伐採する伐採者「ロガー」を多く生み出した。彼らにとって木を伐ることは森とともに生きる証であった。 だが無限にあると思われた「赤い金塊」も尽きる時代がやってくる。もはやレッドウッドの95%は失われ、伐採反対の声が強まった。
1990年代には原生林に棲むマダラフクロウを守れという合い言葉によって森林保護の訴えが米国全土に広まった。運動の主役には、都会からやってきた高学歴の白人が多数占める環境保護論者、そしてヒッピーなどのカウンターカルチャーの人々も多くいた。 彼らは原生自然を神聖視して「アース・ファースト!」を唱え、「地球の敵に妥協せず」を旗印にした。環境保護に賛同する都会の富裕層や政治家の支援を受けて運動は拡大した。その結果、原生林の多くが保護区となり従来の林業家は締め出される。 ロガーたちは、都会の涼しげなオフィスで働くことはできなかった。いや拒否した。その結果、酒や薬物に溺れて家庭を崩壊させ貧困に喘ぐ。そして都会のインテリを憎悪した。その姿は、工業地帯のラストベルトとそっくりだ。