日本でも広がる「森のラストベルト」日本とアメリカで起こる怨恨の実態、もう一つの分断
ロガーたちの〝復讐〟
森から追われた「森を愛する伐採者」たちにとっての〝復讐〟は、盗伐である。伐採が禁止された国立公園の森にこっそり潜入し大木を伐採する。そして幹にできた瘤(バール)だけを切り取っていく。バールには複雑で美しい木目があり、木工で珍重されて宝石のように高く売れるからだ。 北米全体の盗伐被害額は、年間10億ドルに達すると推定されたこともある。そこで取り締まるレンジャーが配置され、森の中にカメラやセンサーを設置し、闇夜の林道で張り込む。銃で狙われる不安を抱えつつ、盗伐者と対峙するのである。彼らも命懸けだ。 ところで西海岸の森林地帯の林業は衰退したのかというと、そうではない。むしろ新たな林業、新たな木材産業が勃興している。それはバイオマス発電燃料となる木質ペレットの生産だ。 石炭石油の代わりに木を燃やしても理論上は二酸化炭素(CO2)を排出したことにならないとされたからだ。つまりバイオマス発電所は脱炭素に貢献し、再生可能なエネルギー源だとされて、木質ペレットの需要が爆発的に拡大したのだ。 米国の私有林の多くは、21世紀の初頭にTIMO(林業投資経営組織)やT-REIT(林業不動産投資信託)と呼ばれる大手ファンドの所有になった。そこで働くのは地元のロガーたちではない。巨大な林業機械を操縦して森を皆伐する林業会社の従業員である。伐られた木は、遠くの町の製材所かチップにされて木質ペレット工場に運ばれていく。 この大規模な森林伐採行為は合法とされる。伐採跡地に植林をすれば森林面積は減ったことにならず、カーボンニュートラルになるから地球環境にも寄与すると認められる。ラストベルトの住人が行う盗伐のように1本2本とこっそり盗み伐るのは犯罪だが、山を丸ごと皆伐しても「アース・ファースト」な事業と見なされたのである。
ブリティッシュ・コロンビア州では、年間20万ヘクタールもの原生林を伐採して、木質ペレット生産に力を入れている。原料は間伐材や林地残材(根株や枝、梢など)のほか、製材後の端材や枯れた木だと工場主らは主張しているが、現実には原生林を伐採した木を丸ごとチップにする分も少なくないとされる。またペレット工場周辺では、騒音や粉塵、煤煙による健康被害を訴える住民が増えて訴訟沙汰も起こしている。 なお生産された木質ペレットは世界中に輸出されるが、日本もその一つだ。カナダからは生産量の半分を超える約158万トン、米国からは約126万トン(いずれも2023年)が日本に運ばれ、バイオマス発電所を稼働させている。