「今こそ、インターネット上での音楽表現を見つけるべき」――サカナクション・山口一郎が考えるコロナ以降のロックバンド
「お金もうけ」しなくていい。普通の生活で音楽を続ける
もう一つ重視しているのがファンとのエンゲージメントだ。 「例えばミュージシャンが政治や戦争について語るとしばしば批判を受けます。特にファン以外の人たちからは『たかがミュージシャンが』と思われることも。だったらファンに対して自分の考えをきちんと伝えられるクローズドなプラットフォームを確保しておきたい。セールスプロモーションよりも、ファンと濃くつながることで『この人が作る音楽なら興味が湧く』というきっかけ作りになる“人間のプロモーション”が重要なんです」 山口は自身が“アーティスト”と形容されることに抵抗があるという。だから都度“ミュージシャン”という言葉を使う。 「僕らはただの音楽好きの兄ちゃん姉ちゃん。ポップスターを目指して音楽を始めた5人じゃなかったんだけど、急に街で声を掛けられるようになって、フラストレーションがたまってしまった。その経験をしたからこそ、マジョリティーの中のマイノリティーでありたいと思ったんです。学校のクラスの30人に好かれるのではなく、1人か2人に深く刺さる音楽を作ろう。そんなマインドにシフトしていきました」 「僕らは音楽を作る時、『お金もうけをしたい』と思っていない。作りたい音楽を淡々と作るべきだと率直に思っているだけ。ビッグビジネスにしようとか、いい車に乗って高級マンションに住みたいと思うなら、たぶんいろいろとあきらめなきゃならない(笑)。お金持ちになりたいと思って活動していないんです。だって、きりがないですよ、お金って。僕は独身だし、毎日コンビニで好きなものも買えるし、何なら別に今より収入が減ってもいい。そう気付いたらすごく楽になった。普通の生活を前提に音楽を続けていければいいと」
「死んでるんじゃないか」と思われる制作スタイル
デジタルと生楽器。オンラインとリアル。シリアスとユーモア。マニアックなグルーヴとキャッチーな歌謡性。サカナクションの表現には常に相反する要素が混在している。 「これとこれは絶対に混ざらないと思うものを無理やり混ぜ合わせるための工夫こそがセンスだと思う。それが混ざり合った時に生まれる“よい違和感”を探し出すことが僕の永遠のテーマです」 歌詞に直接的な恋愛ドラマや応援歌がないのも特徴のひとつ。山口の言葉のルーツは二人の現代詩人にある。 「一人は石原吉郎。シベリア抑留の過酷な体験から研磨された彼の言葉に惹かれ、そこに惹かれる理由を考え続けたのが僕の幼少期でした。もう一人は宮沢賢治。エンターテインメントとして感動したし、少ない説明で読み手に意味を考えさせる作風にも憧れました。僕も現代詩のつもりで歌詞を書いています。抽象的で分かりづらい部分も多いかもしれないけど、リスナーそれぞれの捉え方や深読みをしてもらえればと」