「今こそ、インターネット上での音楽表現を見つけるべき」――サカナクション・山口一郎が考えるコロナ以降のロックバンド
メジャーデビューは2007年。当時はインターネットの影響が音楽に波及し始めた頃だった。 「デビューから今日まで音楽業界はずっと変革期でした。中心にあったのがインターネットとリアルライブの存在。CDがダウンロードに移行して、曲を発表する場にYouTubeが使われるようになり、サブスクリプションも登場した。ライブビジネスのバブルも続いていて、大きな軸がフェスでした。フェスに出ることでファンが付いて、ある程度認知されたら武道館クラスの会場でライブができる。そんな時代が続いていた。僕らもそうしたシステムを踏襲していたけど、疑問を抱くことも多々あったし、ライブやフェスのバブルはいつまでも続かないと思っていました」 そしてコロナ禍。ライブビジネスは苦境に立たされた。 「確かに苦境だけど、バブルから正常な状態になっただけとも言えるかなと。業界内にはまだ『(コロナ禍以前の)元に戻る』と期待している人もいますが、残念ながら僕は元には戻らないと思う。業界全体で必死にならないと、音楽は他のエンターテインメントに場所を奪われてしまう。今こそ、インターネット上での音楽表現を見つけていくべきなんじゃないか、と。そこで僕らは何ができるかを考えたら、これまでためていたアイデアの手札がたくさんありました」
彼らは前述の通り次々とアイデアを形にしていった。実験的精神の支柱にあるのは「長期的な視点」と山口は言う。 「かつてはミュージシャンも瞬間的な結果を求められ、CDを出してデイリーやウィークリーのランキングが振るわなかったら、そのリリースは失敗とされてきた。でも今は3日で1億回再生されても5年後に1億回再生されても同じ1億再生だから、短期的なランキングはあまり関係ないと思う。僕らが2015年に出した『新宝島』という曲もリリース当初はオリコン9位止まりでしたが、SNSでバズって、今までCMタイアップでも使われ、今でもずっと聴かれています」 「長く愛されるものを作る。それが僕のモットー。ストリーミングやSNSのおかげでそういう音楽を作りやすい時代が来た。何かアクションを起こせば、サブスクリプションで旧譜が動く。失敗しても破産さえしなければ経験は次に生かせるし、新しいテクノロジーや仲間も増えていく。僕らみたいな変態の狂気は必ず新たな変態を呼ぶし、作り手側の“わくわく”はネット越しでも受け手に伝わる。だから無謀なチャレンジでもやれるんです」