「今こそ、インターネット上での音楽表現を見つけるべき」――サカナクション・山口一郎が考えるコロナ以降のロックバンド
SNSは不安や恐れを増す「毒」となる一方で、痛みと苦しみの「薬」としても作用した。山口は幼少の頃から群発頭痛という持病を抱えている。 「何年かおきに、突然、目の裏から小人が思い切り釘を刺してくるような耐え難い激痛が走る発作が起きて、それが数カ月続くんです。コロナ禍のストレスのせいかは分からないけど、2020年の秋、その発作が起こってしまって。薬の強い副作用もあってかなりネガティブになりましたが、Instagramでファンと直接会話して、時にけんかをしたり一緒に泣いたりすることで気が紛れました。ファンが友達みたいになっていましたね。きっとみんなも自分の友達や家族を見るように僕を見ていたと思う」 「コロナ禍の自分とリスナーの隙間もSNSが埋めてくれました。ステイホーム中もみんなで同じセンチメンタルを共有することができた。自分とは異なる環境で暮らす人たちの悩みを見つけ出すのもSNS。失うものもあれば得るものもあって複雑な気分ですが、SNSはもう空気みたいな存在だから仕方ないですね」
インターネットによって、長く愛される音楽を作りやすい時代に
自宅からのオンラインライブ。オンラインライブの映像を使ったミュージックビデオ制作。オンラインとリアルライブの融合的な取り組み。ファンとじかに会話を交わすInstagramライブ。コロナ禍、山口はインターネットを駆使したさまざまなアウトプットに励んできた。 その集大成が新作『アダプト』だ。コロナ禍へのアダプト(=適応)を表現したこのアルバムは2部作構成の第1部に当たり、今後制作予定の次作『アプライ』(=応用)で完結を迎えるという。 「僕らはアルバム1枚の制作に何年もかかる。でもそれでは今の時代に適応できない。だからアルバムを2枚に分けて、リリースの合間に新たなアイデアも試せるプロジェクトに仕立てました。コロナ禍で経済的に困窮しているリスナーもいるだろうからCDの価格を下げた。ピンチをチャンスに変えて、この機に以前から考えていたことをどんどん試そうと思って」